次期戦闘機の思索
―極東が求めた異色の機体―

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目次 │
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1.はじめに │ │
2.脅威環境 │
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3.日本の施策 │
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4.今後の動向 │
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5.F-Xへの要求 │
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6.課題と将来 │
7.おわりに │
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【はじめに】
2020年度予算が国会で承認され、次期戦闘機(F-X)の開発も開始された。 開発協力国として米英が候補に上がり、20年度末までに全体計画を策定する。
その一方で、F-Xが「どのような」機体になるのかは断片的に公開資料から読み取れるが、その妥当性や理由はあまり言及されていない。
拙作「次期戦闘機について」では私見を排除し、官側の取り組みについてまとめた。
今回はそれに加え、現在の情勢や筆者の意見を織り交ぜながら、F-Xの思索を深めていく。
核戦力などは本稿のテーマから逸れるため、主に通常戦力に絞って展開する。
あくまで定性的な思索であり、定量的な評価などは全く行っていないのは了承されたい。
【脅威環境】
ここでは現在の脅威-中国の軍事力の概観を述べる。
日本の安全保障で最大の脅威となっているのが、膨張著しい中国である。
自国の主権/利益/安全の確保を第一とし、既存の国家秩序とは相容れない姿勢を見せている。
経済力を背景に他国の政策に影響を及ぼす、三戦(輿論戦、法律戦、心理戦)で国際社会の反発や係争国の能力を矮小化する など非物理手段も重視している。
一方で、準軍事機関を含めた軍事力は非物理手段の影響力を担保し、実行力として作用する。
陸上戦力は冷戦期と比べると規模は縮小しているが、RMAに触発された「量から質への転換」を進めた結果であり、能動的な作戦遂行能力は大幅に向上している。
海軍陸戦隊は外地に投射可能な占有力として、質・量共に強化されている。
海上戦力は空母「遼寧」の運用本格化や空母の国産化、それらを護衛する水上艦艇の増勢を進めている。
航空戦力は第4.5世代機を大量に保有している他、第5世代機のJ-20/J-31の開発配備が行われている。
更に、投射力の強化としてH-20爆撃機の開発をしているとの情報もある。
陸海空共通の事象として、ネットワーク化の推進や長射程のミサイル戦力を拡充している。電磁波や宇宙領域とも組み合わせて「A2/AD」能力を強化している。
さて、A2ADであるが元はAnti Access/Area Denial(アクセス阻止/エリア拒否)という語である。
構成要素には長射程火力(隠密性に優れた火力)と敵を捕捉するセンサ・ネットワーク等が挙げられる。
※A2ADに正確な定義は無く、事象の把握に混乱を招きかねない と批判する声もあるが、広く使われてるため本稿では引き続き使用する。
筆者は、長射程火力は実行力であるがA2ADの本質では無いと考える。
A2ADは、敵(先進国家)での損害(特に人命)への許容度が小さいのを利用し、敵の決心及び行動の選択肢を狭める。
純軍事的に見れば、高機能/高価格化した近代兵器の損耗(特に空母等)は作戦遂行にも影響を与え、軍事行動を制約する要因ともなりうる。
また、行動の制約は情報収集と状況認識-即ちOODAの2つのOにも影響を及ぼす。不確実性を増すOによって決心を妨げ、相手を時間的に後手後手へと追いやり(O-Oループ)、我の主導権確保に資する というのがA2ADに関する筆者の思考である。
無論、A2ADの意図は長射程兵器等の実行力によって担保されるため、純軍事的な脅威抜きには語れない。
図は他のブログ様より拝借した。
基地や艦船の主たる脅威は弾道/巡航ミサイルである。中国は地上発射型、航空機搭載型、艦船搭載型 と多様な投射手段を有しており、沖縄など南西方面の根拠地は概ね射程に収めている。
航空機の主な脅威は戦闘機とSAMである。
中国は国産の大型SAM(HQ-9等)を保有しているが、保有している中でスペックの射程が最も長いのは露製のS-400である。世界的に見ても長射程の部類に入る。
しかし、展開できるのは中国沿岸部であり、東シナ海をカバーできているとは言い難い。目標のRCSや回避能力、敵味方の識別などから発揮できる射程は更に短くなるだろう。
一方で、艦船は移動可能なSAM発射台として見ることもでき、東シナ海での航空機にとっての主な脅威は戦闘機と艦船のSAMと言えよう。
【日本の施策】
日本は国際社会の一員として国際法を尊重し、事態の平和的な解決に向けて努力する。
日本は専守防衛を国是とし、大規模な侵略行為に対しては日米同盟を以て日米共同で対処する。この方針はWW2後から今に至るまで変わらない。
故に日本が米軍来援まで盾となって防衛し、米軍が矛として敵を叩く という役割分担が続いた。
しかし、反撃手段としての敵基地攻撃能力は専守防衛として認められる との考えから、日本が小さな矛の役割も担うとする向きもある。基地攻撃能力を巡っては国内で様々な議論があるがここでは割愛する。
31中期防では従来領域の他に、電子戦・サイバー・宇宙領域での優位を重視する旨が盛り込まれた。
宇宙軍のような独立した軍種は設けず、陸自では電子戦・サイバー部隊の新編、空では宇宙監視部隊の創設など、既存のフォースプロバイダーが新たな領域での作戦遂行能力を整備する。
従来領域と新領域を組み合わせ運用する「領域横断作戦」や更に近年では「多次元統合防衛」という概念も提唱されている。
多次元統合防衛について、31中期防では「領域横断作戦の遂行/平時からの活動の実施/同盟国との連携」を組み合わせた防衛力と説明している。
しかし、どれも概念が提唱される前から既知のものであり、その定義はやや不透明である。
概念が先導する形ではあるが、各領域の能力を組み合わせて作戦を遂行していく流れである。
陸上戦力は事態に柔軟に対応するため、前進が容易な(慣性が低い)占有力の整備を重視するが、敵の大規模侵攻を抑止する重戦力は維持する といった方針である。
高速滑空弾など長射程戦力の開発整備も進む。
南西方面では島嶼に配置されたSSMやSAMを中核とする、言わば「日本版A2/AD」能力が整備されつつある。
これも中国軍による航空/海上優勢を拒否し、軍事力行使の決心を阻害する要素になるだろう。前進が保障された占有力とも組み合わさって抑止力として機能する。
海上自衛隊は新たな護衛艦(FFM)や哨戒艦の建造などを行う。特にFFMは従来の護衛艦の任務を遂行しつつ、機雷戦など水陸両用作戦への適応が図られている。
艦艇の省人化や警戒監視の効率化によって人手不足を補い、一桁護衛艦隊の負担を抑制する。
航空自衛隊は引き続き南西方面の警戒体制を強化する。
戦闘機は航空戦力の中核であり、F-35を147機導入するほか、F-15Jの近代化改修も行う。
陸海空の指揮階梯を結ぶJADGEは、航空作戦の要である。各種機材の連接を行うなど、その重要性は更に増すだろう。
冷戦期において空自は、敵の侵攻を探知し主に迎撃任務を行う「防空軍」的な組織であった。
しかし、F-35や長射程ミサイルの導入、受動的な迎撃への特化からは脱却しつつある。
また、情勢の変化から、艦船搭載を考慮したF-35Bの導入やJADGEによる統合防空など、他の領域との協調を志向しつつある。
ただし、31中期防前ではあるが当初はCEC機能を省いたE-2Dを調達するなど、転換に伴う摩擦は生じている。
領域横断での摩擦は、どの領域においても共通する課題ではある。
さて、米軍の動向についても軽く触れよう。
米軍は、同等の能力を持った国家(中露)への戦いに回帰しつつある。特に中国を最大の競争相手と位置づけている。
米軍は中国との競争で、対A2ADを志向している。
海洋プレッシャー構想は米シンクタンクCSBAが近年発表した対中作戦構想である。あくまでもシンクタンクによる提言であり、米軍がどれほどそれに沿うかは不明である。
しかし、同盟国のA2AD能力の活用や地上発射型ミサイルの整備、無人機の活用、宇サ電領域の強化など提言の要素要素は取り入れられている。
特に海兵隊は、大規模着上陸の先鋒戦力から長射程火力とセンサをもち分散機動する戦力へと転換を図っている。海兵隊が担っていた即応可能な占有力は、陸軍の展開能力強化で役割分担が進む。
海軍は海兵隊と連携した戦力展開や、F-35B/Cの活用、MQ-25Aの配備、FFG(X)の建艦などその戦力を更新している。
超大型空母から中型空母への転換がまたもや議論されるなど、その変革が注視される。
空軍はF-35Aの運用本格化やB-21の開発を進めている。
低コストで自律飛行能力を持った無人機を開発するSkyborg計画、よりAIの信頼性を向上させるACEプログラムの推進など新技術の取り入れに貪欲である。
【今後の動向】
筆者が注目している変化として「太平洋側の警戒」が挙げられる。これまで対中防衛といえば主に南西諸島への警戒であった。
しかし、爆撃機の活動活発化や空母の戦力化に伴い、中国軍がいわゆる第2列島線への進出を進めた結果であろう。
来援戦力たるグアムの米軍をも脅かしかねない動きであり、適切な対応が求められる。
これは筆者の考えであるが、日米中のA2AD能力の構築が重複する形で進められた結果、「互いに持続的な海上/航空優勢を確信できない」という状況になるだろう。
ネットワーク戦闘が分散化などで更に重視され、陸海空問わず通信技術への依存が進むだけでなく、寸断時の対応も焦点となる。
中国軍の航空戦力も増強著しいが、一方でF-35は「高脅威度下でも活動可能な戦闘攻撃機」として機能しうる。
前章で「小さな矛」に触れたが、F-35は長射程ミサイルも含めて選択肢を増やし、我の詭道に資する。
しかし、近い未来に「小さな矛」が肥大化し、空自が対地投射を主とする組織になると言われれば否であろう。
日本は戦略的守勢下で、各戦力もそれに沿う中で、空自だけそれと相反する組織になるとは考え難い。
また、投射に期待できるのは一時的な能力低下であり、決定打とはなりえない。その成果を収穫する占有力が必要となるが、「占有の維持」が目的の防御側はどうやって収穫するだろうか?
反攻時に占有力の前進と合わせて対地投射を実施した例は、湾岸戦争含め多数存在する。だが、日本は戦略的守勢であり、敵の侵略を未然に防ぐのが第一である。
敵は「反攻を含め成功する打算を得た」からこそ行動に移るため、「敵が主導権を握った状況への過適応」は避けるべきだ。
無論、日本の防衛は米軍の反攻能力に担保される形であり、今後とも「盾と矛」の基本的な役割分担は維持するべきだろう。
空自は機動(≠運動)を志向するようになるだろうが、投射能力はその一要素に過ぎない。









