2019年06月


«航空機全体(2)»

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  1. 将来戦闘機機体構想の研究
  2. 将来戦闘機の技術的成立性に関する研究new!
  3. 将来戦闘機システム開発の実現性に関する研究
  4. 将来戦闘機の開発に係る総合的な実現可能性に関する研究




[将来戦闘機機体構想の研究]

01
2011〜2014年
«概要»
 将来戦闘機の概念設計及び3次元デジタルモックアップの作成・評価・改善を行い、将来戦闘機に関連する各種研究の目標設定に資する研究

«背景・目的»
 2010年以降は将来戦闘機の関連研究が開始されたが、それら研究のためには想定すべき将来戦闘機の目標が必要となる。

 そこで将来戦闘機の技術動向等から適用可能な技術を用いた初期的な概念設計を行い、簡易3次元デジタル・モックアップ(DMU)を作成し、各研究での目標設定に資する必要があった。
 
«詳細»
 本研究では以下の手順を繰り返すことで行われた。

①将来戦闘機に期待される機能・性能を想定の上、技術動向等から適用可能な技術を用いた初期的な概念設計の実施

②概念設計に基づく簡易3次元DMUの作成

③実際のパイロットの介在による空戦シミュレーションでのDMUの評価及び運用者の意見の収集(戦術レベル)

④防空シミュレーションを用いた戦域レベルでの戦闘能力評価

⑤シミュレーションで得た結果や運用者の意見を反映した新たな概念設計及びDMUの作成

01
DMUの作成・評価・改善の手順
空戦シュミレーションは将来アビオニクスの
研究で試作されたシュミレータを用いて実施

 本研究では上記の①〜⑤の手順を繰り返す事で異なる特長を有する、23〜26DMUまでの4つのDMUが作成された。23〜26の数字は各DMUが作成された時の年号による。

MagicalIDoveDive氏提供
(情報開示請求:将来戦闘機に向けての
活動概要と今後の展望 より)
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23〜26DMUの一覧

 以下に23〜26DMUの各々の特長を述べる。
(使用画像の一部は公式資料からでは無いが、シンポジウムで発表された映像と一致する事を確認しており、信頼性は確保されている。


①23DMU

46
23DMUの外観概要

56
23DMUの機体三面図

某ブログより
05
23DMUの内部透視図

 23DMUは最初に製作されたDMUである。
 各種センサを搭載し、曲がりダクトやウェポンの並列配置による内装化によりステルス化を図っている。

 ウェポン配置は中央並列に中距離空対空ミサイルを4発を内装、短距離空対空ミサイル2発を左右側面兵装庫に1発ずつ搭載している。


②24DMU

48
24DMUの外観概要


00
24DMUの機体三面図

某ブログより
50
24DMUの機体透視図

 24DMUは23DMUのシミュレーション試験の結果を反映し製作された。機体の外形はYF-23に類似する。

 扁平形状で23DMUより側方ステルスを重視し、機体中央に縦列配置でウェポンを内装している。機体中央に中距離空対空ミサイル4発の縦列配置を行い、左右側面兵装庫に短距離空対空ミサイル2発を1発ずつ搭載している。

 前方ステルスはストレートダクトとレーダブロッカの配置により達成している。


③25DMU

55
25DMUの外観概要

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25DMUの機体三面図及び内部透視図

 25DMUも23・24DMUの戦闘シミュレーション結果(詳細は後述)を反映して製作された。 

 25DMUでは主に行動半径と搭載ウェポン数を重視し、機体の大型化及び搭載ミサイル数の増加が行われた。

 ウェポン配置は中央並列に中距離空対空ミサイル6発を内装、短距離空対空ミサイルは以前とかわらず合計2発、左右側面兵装庫に1発ずつ搭載している。

 ステルス性は機体の扁平形状化及び曲がりダクトとレーダブロッカの採用で、前方・側方ステルスを確保している。23DMUとは違い水平尾翼が下向きに傾斜しており、エンジンノズルを隠す形になっている。


④26DMU

24
26DMUの外観概要

37
26DMUの外観概要
多くの特徴が一致し、背部にCFTらしきものを備える

07
26DMUの機体三面図及び透視図
(先掲載のものを拡大)

※ネット上で防衛省が無償で公開している資料の中に、26DMUと明記されている画像は存在しない。情報公開による開示資料では画像と共にその存在が確認できる。
外観概要で画像は開示資料での26DMUに関する特徴と一致するものを、防衛省が無償で公開している資料から抜き出したものである。

 26DMUは25DMUのシミュレーション試験の結果を反映して製作された、本研究最後のDMUである。

 機体の特長の多くは前身の25DMUに準ずるが、主翼形状の変更などにより航続性能を重視しつつ機体規模の抑制が図られている。主翼形状は23DMUと類似するほか、25DMUでは傾斜した水平尾翼によりエンジンノズルが完全に隠されていたが、26DMUではエンジンノズルの側面下部が露出している。
※外観概要に示した背部にCFTらしきものを積んだ26DMUの詳細は不明

 2014年時点では、2015年に25・26DMUの戦域レベルでの戦闘能力評価を実施する計画であった。

 全体のDMUの変遷としては、前方・側方ステルスの確保、空対空ミサイルの搭載数の増加及び航続距離などの重視が傾向として見られる。


 防衛技術シンポジウム2014ではDMUの戦闘能力の評価結果の一部が公表された。以下にその結果について述べる。(画像からの抜き出しのため、詳細は画像を参照)


①空戦シュミレータを用いた試験内容

・評価対象は23・24DMU
・パイロット介在による戦術レベルの中距離
 空戦評価を実施
・側方RCS低減、レーダ覆域、指令送信覆域
 などの影響を調査

DSC00628
パイロット介在の空戦シュミレータによる評価


②DMU別のRCS低減の結果

・23→23派生型→24 の順に我の消耗弾数は
 増加(敵の消耗弾数は減少)
・23派生型→23→24 の順に我/敵共に射撃
 可能時間が減少
 ※23、23派生型に顕著な違いは見られず、24では敵の射撃可能時間が
 大きく減少
・主翼後退角の変化によるRCSピークの影響
 は少ない

・側方RCSの低減に効果を確認

DSC00629
DMUのRCSが戦闘に与える影響


③レーダ・指令送信覆域別の結果

・レーダ覆域が消耗弾数に与える影響につい
 ては相関が見られない
・レーダ覆域と我の射撃可能時間はやや比例
 し、敵の射撃時間は顕著に反比例する

・指令送信覆域と我の消耗弾数はやや比例し
 敵の消耗弾数は反比例する
・指令送信覆域に対し我の射撃可能時間は大
 きく比例し、敵の射撃可能時間は顕著に反
 比例する

・レーダ/指令送信覆域が広いほど我の攻撃能
 力及び防御能力は向上

DSC00630
レーダ/指令送信覆域と攻撃能力及び防御能力の相関


④防空シュミレータを用いた試験

・数的劣性下での交戦能力評価
・将来戦闘機の性能/機能別に評価
・防空システムの管制によるCAPと迎撃戦闘
 を想定
・CAP位置を変化(近/遠距離)させ評価

DSC00631
シナリオ終了時の我と敵の残存数で評価

dragoner氏提供
DSC00633
防空システムの管制によるCAPと敵複数波への迎撃


⑤機能/性能別及びCAP位置の変化による結果

・機能別としてはネットワークの有無、性能
 別としては速度もしくは航続性片方を重視
・グラフの縦軸は機数を表す

・参加迎撃戦力の機数はCAP距離と反比例
・ネットワークの有無は迎撃戦力の集中及び
 空戦結果に影響(有の方が改善)
・航続性能重視は迎撃戦力の集中に優れる
(速度性能と比較した場合)

・ネットワーク機能は先制撃破に寄与する
・航続性能は在空機数(≒迎撃戦力の集中)
 に寄与する

DSC00634
性能/機能別とCAP位置による結果の変化

 上記試験により戦術/戦域レベルでの戦闘能力評価を実施し、DMUの有効性や改善事項に関する資料を取得した。この結果は25DMUに反映された。


«まとめ»
 本研究の実施により、関連研究の目標に資する異なる特長を有し試験結果を反映したDMUが製作された。
 



«コラム:消えた?スマートスキンレーダ»
 スマートスキンレーダとは機体形状に合わせて配置され、自ら能動的に電波を発し反射波を捉え、機種レーダの探知外となる側面方向の敵を監視するレーダである。

 先述の通り、防衛省はスマートスキンレーダの実現に向けて1990年代から各種研究試作を行ってきた。

 比較的最近の事例としては「将来アビオニクスの研究」では将来戦闘機が搭載するセンサとしてスマートスキンレーダを想定・評価した。「スマートスキン機体構造の研究」では、機体前胴部へのスマートスキンレーダの搭載を念頭にした軽量機体構造が研究された。

14
将来アビオニクスの研究
上方・側方レーダがアビオ構成対象となっている

36
スマートスキン機体構造の研究での運用構想
上方・側方レーダによる広覆域監視を想定

 しかし、先述のDMUの透視図では主翼前縁やインテーク側面、水平尾翼などへの「自らは電波を発しないESMアンテナ」の装備は見受けられるが、スマートスキンレーダに関しては全く情報が見受けられない。

 「アンテナのフレキシブル化技術の研究」では自由に湾曲が可能な空中線が研究されたが、レーダとして必要な高出力での発信は対応していない。

51
将来戦闘機を想定したESMアンテナの配置
(先進RF自己防御システムの研究より)
各DMUの形状は異なるが
ESMアンテナの大まかな配置は上に準ずる

 スマートスキンレーダの搭載を想定していた2000年代後半から、以降は搭載が見受けられなくなった2010年代前半の間で、スマートスキンレーダに対する防衛省の認識がどう変化したのかは興味が持たれるところである。





new!
[将来戦闘機の技術的成立性に関する研究]

54
18
2015〜2017年

«概要»
 F-2後継機の開発の可否の判断を行うために将来戦闘機のアビオニクスを模擬したソフトウェアや機体の想定模型を試作する。

 そしてパイロットを介在した試験を繰り返し実施し、想定模型の風洞試験やRCS計測を行う事で将来戦闘機の要求性能の明確化や技術的成立性の検証などに資するものである。

59

«詳細»
 本研究は将来戦闘機のアビオニクスを模したソフトウェアを試作し、パイロットを介在させた試験を繰り返し行う。また、将来戦闘機を想定した模型を試作し風洞試験やRCS計測を行い以下の目標の達成を目指す。

(1)将来戦闘機の概念設計技術

①先行関連技術研究の成果並びに風洞試験デ
 ータ及び低被観測性試験データに基づき、
 複数の将来戦闘機モデルの精緻化を図る。

②高精度の性能計算により、基本的性能につ
 いてトレードオフスタディを行い、新たな
 概念の将来戦闘機の機能・性能を精度良く
 推算する技術を確立する。

MagicalIDoveDive氏提供
(情報開示請求:将来戦闘機に向けての
活動概要と今後の展望 より)
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概念設計と性能のトレードオフ
精微化モデルの画像は26DMUの流用と推察される

(2)将来戦闘機システムの成立性検証技術

①将来戦闘機システム運用のための膨大かつ
 複雑多岐にわたる各種情報をリアルタイム
 で適切に処理するアビオニクス

②パイロットワークロード低減に寄与するシ
 ステム・アーキテクチャ

③機体/エンジン/ウェポンシステム及び①②
 をソフトウェアによって模擬

④コックピットレイアウト、状況認識手段及
 び操作手段等についてコックピット・モッ
 クアップを用いて検討する

37
戦闘能力評価シュミレータの概要
直接的な検討を行う自機だけで無く、僚機や
脅威機についてもパイロット介在の試験が可能

⑤上記①〜④の
 ・機体を模擬した各種ソフトウェア
 ・コックピットモックアップ

 をパイロット介在の戦闘シュミレーション
 での評価試験を繰り返す事で検証し、検証
 技術そのものも確立する

29
戦闘シュミレーションの概要
空対空戦闘や脅威艦艇に対する対艦戦闘も可能





 研究では54億円の予算のもとMHIを主契約者としてバーチャルビークル(模型及び各種ソフトウェア)を試作された。また、シミュレータも同時に試作した。

26
バーチャルビークル(上記画像は詳細図では無く
概要を示すポンチ絵に過ぎない可能性もある)

07
戦闘能力評価シュミレータ
画像はその構成要素であるコックピットモックアップ

 バーチャルビークルは先に示した画像と初期的なコンセプト案を除いて画像が公開されていない。以下に画像から分かる初期的なコンセプト案の概要を示す。

・全案共通事項
 コックピットの全長/全幅が等しい
 機首の太さが等しい

・航続性&ウェポン重視型
 直線的なLERXと大きく細長い主翼が特徴
 機首上部のIRSTらしき突起が存在しない
 LERX上の線の詳細は不明
 機体の全幅が3案の中で1番大きい
 エンジンの直径が3案の中で1番太い
 ※正確には機体尾部から窺えるエンジンノズル根本の大きさ

・機動性重視型
 短い胴体と大きな主翼/尾翼が特徴
 フラップやラダー等の舵面面積が大きい

・速度重視型
 細長い胴体と小さな主翼が特徴
 機体の全長が3案の中で1番長い
 機体の全幅が3案の中で1番小さい
 エンジンの直径が3案の中で1番細い
 垂直尾翼は見当たらずV字尾翼と思われる
 ※YF-23と同様の全動式V字尾翼と推察されるが詳細は不明

MagicalIDoveDive氏提供
防衛技術シンポジウム2016 オーラルセッション
将来戦闘機に向けての活動概要と今後の展望 
発表スライド8ページ より
42
バーチャルビークルの初期的なコンセプト案

 上はあくまで初期的なものに過ぎず、3案のどれかが将来戦闘機モデルになる訳では無い。

 コンセプト別に、異なる性能を特化させた各案に風洞試験やRCS計測を行う。計測結果から各種性能のトレードオフスタディを行った基準案を作成する。
※初期コンセプト案は各種性能のトレードオフスタディのために、敢えて各案毎に異なる性能に特化させたものと推察される。

29
性能のトレードオフスタディの概要
画像中の基準案は25DMUの流用である

 基準案作成後はそれの派生案も作成する。この流れによって各種性能及び電力・発熱量なども考慮した、将来戦闘機モデルの精微化を図るものである。

 所内試験ではパイロットを介在したシミュレーション試験を繰り返し、模型の風洞試験やRCS測定を行った。繰り返しになるが、バーチャルビークルの最終的な性能配分や外見は公表されてないため詳細は不明である。


56
41
次期戦闘機のイメージ1とイメージ2


バーチャルビークルとの関連性は不明だが2020年度予算で次期戦闘機のイメージが公表された。航続性ウェポン重視型と似た主翼を持ち、V字尾翼である。尾翼平面形は26DMUと類似している。

2020年度の防衛白書では、次期戦闘機の新たなイメージが公開された。

機体中央部の真下付近にある、ウェポンベイの扉らしきものの正体は不明である。






«まとめ»
 複数の想定模型やアビオニクスを模したソフトウェアの試作及び試験を行った。それにより将来戦闘機の要求性能の明確化や技術的成立性の検証を図った。


[将来戦闘機システム開発の実現性に関する研究]

37
2018年〜

«概要»
 国際共同開発の可能性を含め、開発の実現性を検討するため、各種研究の成果を踏まえた将来戦闘機の技術的成立性に関する研究(バーチャル・ビークル)の成果を活用し、コスト低減の追求、国内の開発体制及び海外との協力の検討等に必要な技術資料の収集を実施する。16億円の予算が承認された。



[将来戦闘機の開発に係る総合的な実現可能性に関する研究]
2019年〜

«概要»
 将来戦闘機について、外国と協業する場合のコンセプト検討、開発プラン検討、能力評価を実施する。8億円の予算が承認された。



«その他技術»


無人機・ミサイル・計測技術などは後日追加予定





«アビオニクス関連(2-1)»

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  1. 低RCS目標を見つけるGaN送受信モジュール
  2. アンテナのフレキシブル化技術の研究
  3. 先進統合センサ・システムに関する研究
  4. 赤外線画像の高解像度技術に関する研究
  5. 次世代赤外線センサ技術の研究 



[低RCS目標を見つけるGaN送受信モジュール]

32
2011年(発表年)

«概要»
送受信モジュールを構成する保護回路をGaNスイッチに置換することにより、送受信モジュールの高性能化を図る研究

«背景・目的»
レーダの送受信モジュールは高い電力を作り出す送受信系と、受信系を保護する保護回路から構成される。

レーダは探知距離の増加や巡航ミサイルなど低RCS目標の探知の必要性から、性能に直結する送受信モジュールの送信系や受信系の高出力化が目指されてきた。しかし、保護回路の限界から高性能化には課題があった。

30
これまでの送受信モジュールの課題

送受信モジュールのさらなる高出力化と高性能化のため保護回路を、優れた特性をもつGaNスイッチに置換する研究を行う必要があった。

07
GaNスイッチの利点

«詳細»
高性能な送受信モジュールを実現するため、最初に研究課題であるGaNの試作と測定・評価を行った。

GaNスイッチの測定・評価では、優れた漏れ電力の抑圧度と挿入損失を有していることを確認した。(100MHzに於いて)

46
漏れ電力の抑圧

43
挿入損失の低減

GaNスイッチの計測・評価後は送受信モジュールの試作が行なわれ、こちらも測定・評価が実施された。

測定・評価ではLバンドにおいて世界最高レベルである、200W以上の送信電力を有する事が確認された。

37
試作された送受信モジュールの概要

24
送受信モジュールの測定結果

«まとめ»
本研究の実施により、GaNスイッチを有する高性能な送受信モジュールの実現が達成された。本研究の成果は低RCS目標の早期探知が可能なレーダの開発に資するものである。



[アンテナのフレキシブル化技術の研究]

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08
2010〜2012年

«概要»
1 種類のアンテナで様々な曲面形状に適応できる一次元方向で任意の曲率に湾曲可能なフレキシブルアンテナの実現に関する研究

«背景・目的»
航空機のレーダは平面アンテナの場合は機外に搭載する必要がある。機体形状に適合したコンフォーマルアンテナも、それぞれの搭載部位に合わせた専用設計が必要になる。

機体への搭載性を改善するため、一次元方向で任意の曲率に湾曲可能なフレキシブルアンテナの研究を行う必要があった。

«詳細»
研究では、以下のような概要のフレキシブルアンテナが試作された。

・Xバンドで動作する128素子の空冷アクティブフェイ
 ズドアレイアンテナ
・厚さ約3cmの薄型アンテナ
・1次元方向に湾曲が可能

1310_1_img1
試作されたフレキシブルアンテナ

試作されたフレキシブルアンテナは以下のような特長を有する。

①形状適応性
・湾曲を考慮した独特の構造
・湾曲状態における波面の位相ずれの補正
・機体形状毎の専用設計不要かつ機体形状に
 合わせた、1次元方向に任意の曲率に湾曲が
 可能

35
アンテナ構造

画質が粗いため構造について補足を行うと

・表面
オレンジ:反射版
黒:走査切替スイッチ
灰色(黒の横):アンテナ素子
灰色(黒の下):?電回路(?が不明瞭)

・裏面
緑:プリント基板
赤:送受信モジュール

以上で1素子を構成する。隣接する素子の、アンテナ素子-走査切替スイッチ-?電回路の接触部は可動が可能であり、湾曲機能を有す。

湾曲状態における波面の位相ずれの補正に関しては以下のようなプロセスで行う。

①アンテナ表面のセンサにより曲率を算出
②算出した曲率から各素子の位置座標を計算
③指定したビーム指向角に垂直な波面を形成
 するよう、各素子の位相量を調整

01
補正の仕組み(先述の説明の③では
画像中の③・④のプロセスを統合している)

②軽量薄型
・分散配置による大口径化と探知距離の延伸
・大面積化が容易
・構造強度など搭載制約条件の緩和

③低消費電力
・外気による空冷が可能(ただし大出力化に
 よる送信は困難)
・電源等の搭載制約条件の緩和


試験では電波暗室において、湾曲状態と平面状態のアンテナパターンの測定を行った。
測定の結果、指定した方向にビームが形成され、波面補正が有効に機能していることを確認した。

1310_1_img2
電波暗室内でのアンテナパターン測定の様子

29
アンテナパターンの測定結果
(青:平面 赤:波面補正なし 緑:波面補正あり)

«まとめ»
搭載性に優れた湾曲可能なフレキシブルアンテナの試作と試験を行った。試験では湾曲状態での波面補正による有効性が確認された。



[先進統合センサ・システムに関する研究]

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35
2010〜2018年

«概要»
レーダ、ESM、ECM機能を持つRFセンサを戦闘機に搭載し、低RCS目標に対する実環境下での探知、追尾能力について研究する。

また、RFセンサとEOセンサを含めた協調制御及び統合処理による探知、追尾能力の向上についての研究

«背景・目的»
周辺国ではステルス機の開発・配備が進められている。ステルス機は反射する信号が極めて制限されており、これらへの対処には困難が予期される。

ステルス機の対処には、ステルス機からの反射もしくは輻射する微小な信号を捉える必要がある。そこで、自機に搭載されるレーダ・EW機能をもつ共用開口RFセンサとIRSTなど複数のセンサ情報を統合する。

電波並びに光波など、ステルス機から反射もしくは輻射する微小な信号を探知、追尾、さらに対処可能とする技術を確立する必要があった。

«詳細»
上記目標を達成するために、多機能レーダ及びIRSTを試作しセンサ単体での試験を行う。その後は試作されたセンサを実機に搭載して飛行試験を行う事で機体トータルシステムとしての成立性を飛行実証する流れである。

研究は176.5億円の予算のもと、各センサの試作及び機体側の改修をMHIが主契約者として実施した。

研究試作では、センサ部の試作とXF-2を試験母機とする機体の改修が以下の通りに同時並行して行われた。


研究試作(その1)
①システム設計
・先進統合センサ・システムのシステム構成
 等の設計
・先進統合センサ・システムのレーダ、
 ESM、IRSTの協調制御及び統合処理を検討
 するための統合処理検討用ソフトウェアの
 製作

②機体改修設計
・先進統合センサ・システムを試験母機に搭
 載し、インテグレーションするための母機
 改修設計等

当初(2009前後〜2011年頃)はF-15を先進統合センサ・システムの試験母機として想定していた。しかし、2012年では試験母機はF-2に変更されている。

変更された理由としては本事業によるF-15改修時のライセンス技術の使用目的について、ボーイング社より疑義を示され、米国に確認を求めたところ、議論が長期化し契約履行期間内に結論を得ることが困難となったことによる。F-15のライセンス技術資料を使用する作業について削除する変更契約を実施し、試験母機はXF-2に変更された。

防衛省は試験母機の変更による事業への影響はないとしていたが、本件の関連は不明なものの研究完了予定時期が当初予定の2016年から2018年へと延長されている。

32
F-15を試験母機とした当初の構想
IRSTを含めて内装化されている

研究試作(その2)
①システム細部設計
②送受信モジュール部及び電源の製造
③機体改修細部設計

研究試作(その3)
①高性能センサ及びIRセンサの製造
②機体改修キットの製造

研究試作(その4)
①先進統合センサ・システム及び各種専用試
 験装置の製造
②機体改修部品及びOFPの製造


試作された先進統合センサ・システムの概要と特長を以下に示す。なお、先進統合センサ・システムにはスマートRFセンサの研究成果が反映されているという。

・GaN半導体による小型化、高出力化、広帯域化、
 高効率化
 ※AVIATION WEEKによると当センサのGaN素子は東芝製とされている

・他国第5世代機比で1.5倍のレーダ探知性能
 ※どの第5世代機が基準かは不明である

・ブロック化モジュールによるスケーラブル構造

・1つの開口面によるレーダ、ESM、ECMなどの多機
 能性

・測距能力に優れランダムスキャンによる低被探知性
 を有するレーダ

・マルチビーム制御による広範囲監視と高精度な測角
(方探)が可能かつ低探知性に優れたESM

・高精度な測角と追尾が可能かつECCM性と低被探知
 性に優れたIRST

・異なる特性を持つ、各センサの状況に応じた最適な
 併用と外部センサを含めた統合信号処理及び航跡情
 報の統合表示

IMG_20190716_233328
先進統合センサシステムの概要

IMG_20190717_001223
先進統合センサシステムの全体模型
電源部には5つの接続部が確認できる

AVIATON WEEKより転載
10
先進統合センサ・システムの開口部
ブロック化モジュールによるスケーラブル構造
空中線の表面にモザイクがかけられている

先進統合センサ・システムを試作後、所内試験においては、まずセンサ単体での性能確認試験を行った。試験はレーダ電子戦シュミレータで行われた。(当施設の詳細に関しては多機能RFセンサの項目を参照)

57
性能確認試験中のセンサ部
灰色のレドームが取り付けられていられる

レドームに関しては本研究試作では試作が明記されていない。公式文書では費用削減のため過去の研究成果を積極的に取り入れるとし、「アクティブ・電波・ホーミング・ミサイル搭載に関する研究等の成果物を貸付文書として活用している」とある。

この他にも、「将来アビオニクスシステムの研究試作における納入品を貸付品とする」としているが、具体的な適応箇所は不明である。

33
アクティブ・電波・ホーミング・
ミサイ搭載に関する研究」で試験中のF-2

2018年10月31日には先進統合センサ・システムを搭載したXF-2が飛行を行った。機体側の改修を最小限に抑えるため試作されたIRSTはASM-2の筐体を用いて機体外部に吊るし、試験を行う。IRSTは白色のASM-2のシーカー部を換装する形で装着されており、右翼側の青色のASM-2はダミーである。

IMG_20190717_002137
先進統合センサ・システムを搭載して飛行を行うXF-2
レドームが通常時の白色から灰色に換装されている

40
通常時のXF-2
XASM-3の搭載試験を行っておりレドームは白色である

11月の国際航空宇宙展2018では先進統合センサ・システムの空中線部(実物)が展示された。XF-2に搭載されたものを分解し輸送したのか、飛行時の10月31日時点ではレドームだけ換装してまだ取り付けられていなかったものを展示したのかは不明である。

IMG_20190716_201211
JA2018で展示された空中線部

ら氏提供
04
同展での空中線部(裏面)
液冷による冷却用と思われる管が取り付けられている
※赤の5つの接続部が電源用で黄色の2つの接続部が励振受信機の接続部だと思われるがあくまで作者の推測である

2019年3月26日のANNの放送では実際に先進統合センサ・システムが、XF-2に搭載されている様子が放映されている。

20
XF-2に搭載された空中線部
赤色のカバーで覆われており、黄色の機種部には
冷却用の管と思われる接続部や黒色のところ
から伸びる電気系統と思われしき管が確認できる


防衛省によると飛行試験の結果は良好だったと2019年9月のAVIATION WEEKは報じた。同記事内では以下のように述べている。

・同世代機の中でも出力は最高レベル
・防衛省は詳細は明かさないものの、理論値にい非
 常に高い出力を達成した事を示唆
・試験後の予定では試験結果の検証を行う事にって
 いるが、追加の試験飛行を実施する可能性がある


«まとめ»
異なる特性をもつレーダ、ESM、IRSTを統合処理しステルス機の探知を目指す先進統合センサ・システムを試作した。実機に搭載しての飛行試験を含め所内研究をおこなっている。





[赤外線画像の高解像度技術に関する研究]

37
05
2014〜2019年

«概要»
戦闘機等の各種プラットフォームに搭載される赤外線画像装置の高画質化に必要となる要素技術について、実環境下でその成立性を検証し、技術資料を得る研究

«背景・目的»
戦闘機に搭載されるFLIRは夜間及び悪天候時の地形認識による航法や目標標定用として、戦闘機及び各種プラットフォームで活用されている。

一方、各種目標のステルス化・地上レーダの発展など対抗手段も発展している。これらに対しFLIRはより遠方からの探知や識別が必要となっており、性能向上が期待されている。

これらの事からFLIRの高解像度化に必要となる要素技術について、実環境下でその成立性を検証し、技術資料を得る必要があった。

本研究の実施により、赤線画像装置における高精度空間安定化技術及び望遠時高解像度化技術、並びに広覆域を有する光学系実現に関する技術の取得を目指す。戦闘機以外の各種プラットフォームへの適用も期待される。

37
FLIRの高解像度化による運用構想


«詳細»
本研究では実環境化でのFLIRの高解像度化技術について確認するため、先述の外装型FLIR装置をベースに研究を行っている。

搭載母機に関しても外装型FLIR装置の搭載母機を活用し、既存品の外装型FLIR装置の活用を含めてコスト削減を行っている。

45
F-2に搭載された外装型FLIR装置(再掲)
研究試作では当装置がベースとなる
当装置の概要は2波長赤外線センサの項目を参照

本研究は17.4億円の総予算のもと、MELCOを主契約者として研究試作及び所内試験を実施した。

遠方から高い解像度を有する赤外線映像の撮影するには、航空機の過酷な振動環境下で画像ブレの無い映像を撮影する必要がある。そこで本研究では機体の飛行時の振動を補正する、精密視軸走査器を試作した。

07
精密視軸走査器の概要

本装置は高速・高精度に視軸を可動させる精密視軸走査ミラー(FSM)を特徴としている。赤外線センサシステムに組み込む事で機体振動を補正し、視軸を安定化する事で遠方目標への視認性を向上させる。

13
FSMの構造

研究試作では「赤外線画像高解像度化実験装置(搭載型)の研究試作」という名目で、システム設計の後に精密視軸走査器が試作された。

28
試作された赤外線画像高解像度化実験装置
八角形のミラーが確認できる

26
展示された精密視軸走査器
ミラーは取り外されている
防衛技術シンポジウム2019より

所内試験ではシュミレーションによる画質改善イメージの確認と振動試験による視軸安定化精度を確認した。試験の結果、振動による視軸ブレを1/5以下に安定化するのを確認した。

13
FSMによる画像及び視軸ブレの抑制

所内試験の終了後、2018年に研究を完了した。

«まとめ»
各種目標のステルス化と地上レーダなどに対処するため、戦闘機を含む各種プラットフォームに適用可能なFLIRの高解像度化に関する研究を行った。




[次世代赤外線センサ技術の研究]

56
43
2020〜2025年

«概要»
現有センサより遠距離からの画像情報収集及び高い目標探知識別を可能とする、高性能な赤外線センサに関する研究

«背景・目的»
島嶼部侵略や武装工作船等、厳しさを増す安全保障環境において、広域かつ常続的な監視の強化や宇宙領域を活用した情報収集等が求められる。その手段の一つとして、高性能な光波センサを搭載した航空機が有効である。

しかし、国内外に存在する既存のセンサ技術の改良では要求される高性能な光波センサは実現し得ない。
そこで高性能な光波センサの実現のため、より高感度・広帯域な2波長1素子の赤外線素子技術を確立する必要がある。

固定翼哨戒機(P-1)能力向上に本研究の成果を反映させるため、総事業費を31億円として2020年度から開発に着手する。2025年に所内試験を終える。
本技術の優位性を確保し、海外とのバーゲニングパワーの獲得を見込む。既存の赤外線センサの置き換えや、今後開発が予期される装備品にも必要な技術である。

※所内試験の試験研究費は別途計上する。

56
高性能な赤外線センサの運用構想

«詳細»
2020年予算では本研究に15億円が計上された。
本研究では高性能な赤外線センサの実現するため、以下の2つの技術について研究を行う。

①高感度・広帯域検知素子技術
量子効率が高いタイプ2超格子構造の特性を活かし、2波長帯(遠赤外/中赤外)を1素子で検知し、目標の探知距離等の延伸が実現できる高感度かつ広帯域な赤外線検知素子の作製に関する技術を確立する。

②読出し回路の低ノイズ化技術
赤外線検知素子から出力されるアナログ信号をデジタル値に変換する機能を読出し回路内に内蔵することにより、ノイズの低減を図る技術を確立する。
※量子効率: 受光素子の性能を示す指標で、入射光に対する光電子数で定義される。この量子効率が高いほど赤外線検知素子の感度が高い。

研究期間の短縮や費用の抑制等、効率化のために既述の2波長赤外線センサにおける成果を最大限活用する。

試作品として、広帯域2波長1素子の赤外線検知器(検知素子、読出し回路)及び冷却部から構成される広帯域検知器アセンブリを製造する。
試作段階でP-1哨戒機を始めとした各種プラットフォームへの適用を考慮し、研究成果の早期具現化を目指す。

42
広帯域センサの概要

«補足»
2019年度概算要求では常続監視用光波センサ技術の研究が計上されたが、同年度予算では計上が見送られた。その内容はここで述べた次世代赤外線センサ技術の研究とほぼ同一である。総事業費は40億円で、25年度に所内試験を終える予定であった。

研究内容については次世代赤外線センサ技術の研究で述べた2点の他に、広帯域波長処理技術も対象となっていた。
※予定されていた広帯域波長処理技術 : 赤外線検知素子の分光感度及び大気の窓を最大限活用可能な検知波長帯に適した広帯域光学系により目標の分光強度を増加し、目標探知距離等の延伸を実現する。
最適な広帯域光学系による目標抽出性能の向上を図る。

«まとめ»
各種プラットフォームへの適用を目指した、高性能な広帯域赤外線センサを開発する。















«エンジン関連(2)»

59
  1. エンジン排気赤外線低減化技術に関する研究
  2. 小型高出力補機の研究
  3. 次世代エンジン主要構成要素の研究
  4. 戦闘機用エンジン要素の研究
  5. 戦闘機用エンジンシステムに関する研究
  6. 戦闘機用エンジンの適用可能性向上に関する研究new!




[エンジン排気赤外線低減化技術に関する研究]

39
2011〜2012年

«概要»
 航空機用エンジン排気の赤外線放射強度の低減技術に関する研究




[小型高出力補機の研究]

50
2012〜2013年

«概要»
 将来の戦闘機に求められる小型高出力のエンジン補機の研究



[次世代エンジン主要構成要素の研究]

00
32
2010〜2015年

«概要»
 次世代の航空機用エンジンについて、高推力重量比化に必要な高温、高圧状態で作動する主要構成要素である高温化燃焼器、高温化高圧タービン及び軽量化圧縮機に関する技術について地上実証により獲得する。

«背景・目的»
 将来戦闘機のコンセプトや研究スケジュールをまとめたものとして「将来の戦闘機に関する研究開発ビジョン」が発表された。そこでは将来戦闘機が搭載を想定するエンジンのコンセプトとして「次世代ハイパワースリムエンジン」が提唱された。

 将来戦闘機のステルス性・高速性能及び高運動性を実現するため、エンジンのスリム化によるステルス化と、日本の優れた耐熱素材技術による大推力化がコンセプトの骨子である。

45
エンジンのスリム化によるステルス性の向上
機体の薄型化やウェポン内装化に
よるステルス性の向上が見込める

13
機体側面から
エンジンのスリム化は燃料・ウェポン内装容積の
拡大に資し、内装搭載量や燃料の増加に繋がる

このエンジンの大推力化とスリム化の両立には以下のような技術が必要である。

・ファンや圧縮機の改善による高効率な呼気
※スリム化=少直径化はファンの断面積の減少を招き呼気量の減少というデメリットがあり、それを補完する必要がある
・コアエンジンの耐熱性の向上による燃焼ガ
 スの高温化
・エンジンの軽量化による高推力重量比

 将来戦闘機開発時の選択肢として資するためにも、上記特長を有する戦闘機用エンジン技術を蓄積する必要があった。

 そこで、要素技術の研究からプロトタイプエンジンの試作までを含めた、一連の研究が計画された。

11
将来戦闘機に続く一連の研究の流れ

 本研究の「次世代エンジン主要構成要素」では第1段階目として、エンジンコア部である高圧系要素の高温化について研究を行う必要があった。実現難易度が高い高圧系要素技術を確立することで、コアエンジン技術に対するリスク低減を図るものである。

«詳細»
 本研究ではエンジンの大推力化を実現するため、コアエンジンを構成する 圧縮機・燃焼器・高圧タービン をそれぞれ構成要素として研究を行った。総予算は66.4億円であり、IHIを主契約者として2010年から2015年まで構想設計・研究試作(2010〜2014年)と各種試験(2013〜2015年)が行われた。

00
試作品全体の概要

 圧縮機に関しては3次元翼設計などによる圧縮効率の向上を行った。また、更なる小型軽量化を図るため全段ブリスク構造を適用し、XF5-1の圧縮機と比較して10%の軸長短縮を図った。

44
試作された圧縮機
6段のファンより構成されている。

 24
圧縮用タービンの正面図

 高温に晒される燃焼器及び高圧タービンは、タービン入口温度(Turbine Inletf Temperature:以下「TIT」)1800℃を研究目標としていた。XF5-1のTiTは1600℃であり、それより200℃高温化されている。

 高圧タービン部はタービンシュラウドや動翼、静翼及びディスク材に構成される。TIT1800℃を達成するため以下のような技術が用いられている。

①動翼及び静翼
・第5世代Ni基単結晶合金
・フィルム冷却用の高性能フィルム孔
・凹凸型の内部構造によるメッシュ冷却
(静翼)
・折返し型の内部構造によるメッシュ冷却
   (動翼)

52
動翼及び静翼の外観と冷却構造概念図
内部は冷却空気を通す複雑な空洞構造を持ち、表面の
小孔から滲み出し膜のように覆う(フィルム冷却)

 疲労試験用と冷却性能試験用の2種類が試作され、各種試験を行った。冷却性能試験では燃焼ガス温度、冷却空気温度、翼表面温度などの条件を変えて計測することにより、高圧タービン翼の冷却効率を確認した。

img2019_kousouken10_08_02
熱疲労試験時の様子

52
冷却性能試験時の様子

22
赤外線カメラによる試験時の様子
周囲温度に比べタービンは
低温であり、冷却効果が確認できる

②タービンディスク
・溶製鍛造Ni-Co基超合金(TMW-24)
・日本エアロフォージ㈱の5万トンプレス基を
 用いた鍛造
 
 高圧タービン・ディスクは材料に溶融鍛造材を採用する。通常はタービン・ディスクは粉末冶金材を用いるが、国内ではこの製造設備が無く、調達を海外に依存せざるを得ない。しかし、近年において粉末冶金材に劣らない強度を有する溶融鍛造材が開発された。

 また、大型のディスクを製造するために必要な大型鍛造プレス機が経済産業省の補助事業として国内で整備され、世界最大級のディスクが国内で製造可能となった。

 このような背景や、安定した調達とコスト低減の観点から高圧タービン・ディスクとして溶融鍛造材を用いることとなった。
※神戸製鋼が阪神淡路大震災の被災で撤退後、粉末冶金材を用いた大型部品の国内製造が不可能になったとされている。

42
TMW-24と各材料との比較(文献値)
最新の粉末冶金材よりは劣るものの、
既存の溶製鍛造材より優れた耐熱性を有する

09
日本エアロフォージ㈱の5万トン油圧鍛造プレス

23
試作されたタービンディスクの製造過程

 実際にTMW-24を用いたタービンディスクの製造が行われた。また、タービンディスクが文献値通りの性能を持つか確認するため、製造したタービンディスクから試験片を入手し材料試験を行った。

 試験の結果、TMW-24は既存のタービンディスクより優れた性能を有し、TMW-2,24と同等の性能を持つことが確認された。実条件を模擬した損傷を与える試験などの多岐にわたる試験を実施し、良好な結果を得た。
※空力性能、燃焼性能及び部品強度に関してはディスクだけでなく各試作品に実施している。

36
材料試験の概要

25
得られた結果

③高圧タービンシュラウド
・CMC(炭化ケイ素繊維)の適用
・耐環境性コーティングの適用

 高圧タービンの外枠を覆うタービンシュラウドはCMCを使用している。シュラウドは高温に晒さられるが回転しない部品であるため、割れやすいが高温に強く軽量なCMCの適用に適している。

 所内試験では実機を模した熱負荷及びサイクル負荷を与え、機能損失に至る損傷が無いことを確認した。

14
宇部興産製のCMCを用いたタービンシュラウドの試験
表面に耐環境性コーティングが施されている

 空力性能の確認用に、高圧タービン空力要素として高圧タービン全体のスケールモデルも試作されている。タービンシュラウドや動翼、静翼及びにタービンディスクから構成される。

45
高圧タービン空力要素
黄色の構造材は静翼や回転部を
エンジン構造の一部として保持する

free_l (2)
高圧タービン空力要素の実物

 燃焼器は二重壁複合冷却構造による新冷却構造を採用し、高圧タービンと共にTIT1800℃の実現を目指した。所内試験では燃焼器ライナの冷却効率、温度分布、燃焼効率などの性能を確認した。

28
試作された燃焼器
26個の燃料噴射部が確認できる

«まとめ»
 本研究の実施により、ハイパワースリムエンジンを可能とする、高温・高圧化されたコアエンジン要素に関する技術資料を得た。本成果は次の段階以降にも活かされる事となる。



[戦闘機用エンジン要素の研究]

46
27
2013〜2017年

«概要»
 機体規模が大型化傾向にある将来の戦闘機において、ステルス性及び高高度/高速戦闘能力を確保するために必要となるスリム化と大出力化を両立させた戦闘機用エンジンシステムの要素に関する研究

«背景・目的»
 ハイパワースリムエンジンを実現するために、第一段階の「次世代エンジン主要構成要素」ではコアエンジンの要素研究を実施した。

 本研究では第二段階として、「主要構成要素」の成果を反映させたコアエンジン全体の試作及び、低圧系である高圧力比ファンと高負荷低圧タービンに関する研究を行う必要があった。

«詳細»
 本研究はIHIを主契約者として187.6億円の予算のもと、コアエンジン全体の試作及び高圧力比ファンと高負荷低圧タービンの研究試作を行った。

 高圧力比ファンに関しては従来よりも入口側の通路幅を大きくし、出口との比を大きくとることで遠心圧縮効果を利用し、圧力比を上げつつ吸い込む空気流量を増やす大流量化を図った。また、圧縮機と同様にファンについても全段ブリスク化により軽量化を図っている。

55
試作された高圧力比ファン

40
国際航空宇宙展2018東京(JA2018)
で展示された試験用エンジンファン

49
ファン1段動翼
入口側の通路幅が拡大されている

 コアエンジンは前述の通り、「次世代エンジン主要構成要素の研究」の成果が反映されている。これにより、TIT1800℃を目指した。

 所内試験では2017年6月28日に、IHIから防衛装備庁へと試作されたコアエンジンが納入された。納入と同時に、後述の「戦闘機用エンジンシステムの研究」で試作が進められていたプロトタイプエンジンの型式がXF9-1と発表され、同時に目標性能も公表された。

 納入後は2017年7月より札幌試験場にて性能確認試験を実施し、高圧タービン入口温度 1800℃における作動健全性確認を完了し、定常性能、着火特性等に係る試験データを取得した。コアエンジンがTIT1800℃を達成した事を確認した。主要構成要素のマッチングや部分的な軽量化も確認された。

 38 
納入されたコアエンジン
正面の開口部が圧縮機であり、
後方へと燃焼器-高圧タービンと続く

img2019_kousouken10_05
ATFのチャンバーに搭載されたコアエンジン

06
TIT1800℃確認試験

 高負荷低圧タービンに関しては、2軸のタービンが逆方向に回転する反転タービンの採用により、タービン1段で高効率化と高負荷化を実現した。性能確認試験ではスケールモデル(53%)を用いた。

06
試作された高負荷低圧タービン

 この他にも、アフターバーナ、排気ノズル、燃料ポンプなど補機に関する技術的な基礎データを蓄積した。

 特にアフターバーナについてはアフターバーナの入口に火炎を保持するための保炎器の構造を簡略化し、圧力損失の低減を図っている。XF5-1の保炎器のような周方向と径方向の構造材で構成される保炎器では、空気の流れが乱されて圧力損失の原因となる。そこで周方向の構造材を無くし、半径方向のみの構造材で保炎をすることで低圧力損失化を狙ったアフターバーナの実現を目指した。

16
保炎器の形状比較
半径方向のみの構造の実現を目指す

«まとめ»
 将来戦闘機に搭載されるハイパワースリムエンジン実現に向けての第2段階として、ファンや低圧タービンなどの低圧系と主要構成要素を反映させたコアエンジンの試作を行った。所内試験で各試作品が所要の性能を満足する事も確認した。



new!
[戦闘機用エンジンシステムに関する研究]

29
39
2015〜2019年

«概要»
将来の戦闘機に搭載可能な、高推力かつ軽量な次世代エンジンシステムを試作し、システムの成立性を地上実証する

«背景・目的»
次世代エンジン主要構成要素・戦闘機用エンジン要素ではエンジンの低圧系と高圧系についての研究を行った。

※戦闘機に搭載可能なプロトタイプエンジンを試作→将来戦闘機用エンジンの開発が可能に という関係性である。本研究によるプロトタイプエンジンが将来戦闘機用エンジンとして搭載される訳では無い。

ハイパワースリムエンジンの実現のために、第3段階として実際の戦闘機に搭載可能な大推力プロトタイプエンジンを試作する。試作によって実機の搭載に要求される

①大推力エンジン要素技術の統合
②エンジンの低観測化技術
③エンジン機体適合・運用性技術 

などを確立する。



代替手段として要求推力性能を満たす可能性のある以下の外国開発のエンジンも同時に調査検討を行った。

・F119(米国・F-22に搭載)
・F135(米国・F-35に搭載)
・EJ200(欧州・タイフーンに搭載)
・M88(仏国・ラファールに搭載)

調査の結果、EJ200とM88は推力性能を満たない。
F119、F135は推力の要求性能に合致するが、技術移転の可否、機体との適合性の良否等を含めた代替可能性を判断できないとされた。

このような背景からも、国内開発のエンジンシステムが、将来戦闘機の搭載エンジンの候補となるために本研究を実施する必要があった。
※あくまで本研究は国内開発エンジンが、搭載エンジンの候補の1つに資する目的である。即ち将来戦闘機の実際の仕様や開発プランによって搭載エンジンの仕様も変動しうる。選定された開発プランで明記されるまでは必ず国内開発エンジンが搭載されると「断言は」できない。

«詳細»
本研究はプロトタイプエンジンの試作を行うために、IHIを主契約者として174.4億円の予算のもと研究試作と所内試験を行っている。

2015〜2017年にプロトタイプエンジンの研究を開始した。
先述の「戦闘機用エンジン要素」でコアエンジンが納入された際にプロトタイプエンジンの型式がXF9-1と発表された。
※戦闘機用エンジン要素で納入されたコアエンジンとXF9-1のコアエンジンは別物である。エンジン要素で試作されたコアエンジンの成果が、XF9-1のコアエンジンに反映されている。



性能設計・全体図の作成からなる基本設計の完了後、詳細設計と製造試作に移行した。2018年6月29日にはIHIから防衛装備庁へXF9-1が納入された。



24
XF9-1の内部構造
ファンの下面にはスタータ・ジェネレータが設置

以下にXF9-1の概要や特長を述べる。
なお本研究は、次世代エンジン主要構成要素・戦闘機用エンジン要素で研究された大推力技術を統合する目的もあり、特長はそれらに準ずる。


①エンジン全体


09
ハイパワー化とスリム化の両立

free_l (3)
XF9-1と他国開発エンジンとの比較


XF9-1のコンセプトは大推力とスリム化を両立したハイパワースリムエンジンである。

ハイパワー化は、ファン・圧縮機の効率化や世界最高水準であるTIT1800℃の高圧タービン等で達成した。
目標性能であるアフターバーナー(以下AB)非作動時で最大108kN(11t)以上、作動時で147kN(15t)以上を実現している。

スリム化は、F135やF119より全長や直径の短縮を果たした。
F-2に搭載されているF110に対してもじ推力レベルにおいて断面積で約3割のスリム化を実現した。

エンジン下部には、エンジン始動用のスタータと機体に電力を供給する発電機を統合したスタータ・ジェネレータを搭載した。世界最高レベルの180kwの発電能力を持つ。



諸元ーーーーーーーーーーーーーーーーー
形式:アフターバーナ付低バイパス比    ┃
    ターボファンエンジン        ┃
・最大直径:N/A            ┃
・空気取り入れ口直径:約1m                ┃
・全長:約4.8m                 ┃
・重量:N/A                 ┃
・圧縮機:ファン3枚・圧縮機6段             ┃
・燃焼器:アニュラ型            ┃
・タービン:1段低圧・1段高圧タービン       ┃
・推力:11t(108kN)ー15t(147kN)以上  ┃
・タービン入口温度:1800度以上      
・推力重量比:N/Aは          ┃
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



②ファン


・エンジン入口のコーンサイズの縮小(低ボス比化)
・最新の数値流体力学の適用
・全段ブリスク構造(ディスクと動翼を一体化)
・エンジン入口側のファン通路幅の拡大と、それによ
 る遠心圧縮効果
・上記技術による単位面積あたりの空気流量の向上
 (XF5-1比で12%向上)
・ポリトロピック効率の2.6 pt.の上昇






③圧縮機
16
・3次元翼設計(前方スイープ翼形状)の適用
・動翼全段へのブリスク構造の適用
・ブリスク構造による、軸長の短縮と軽量化
・軸長の短縮に伴う高圧力化
(XF5-1と比べ軸長比にし、17%の圧力比の向上)
・ポリトロピック効率の2.6 pt.の向上







④燃焼器




06

・旋回性の強い広角スワーラと、貫通度に優れる1次
 希釈空気を利用した、広角スワーラ燃焼方式の採用(燃焼安定性、燃焼器出口温度の均一化、出口温度の
 高温化による所要気量の削減 等に優れる)





・先進冷却ライナによる、高温化への対応
ー燃焼器壁面(ライナ部)への複数の冷却機構の適用
ーフィルム冷却、噴流冷却(インピンジメント冷却)、
 二重壁構造

・TiT1800℃の達成




IMG_20190721_005526
主燃焼器用燃料噴射弁

13
燃料噴射弁への3Dプリンタの適用

24
従来構造との比較

・主燃焼器用燃料噴射弁への3Dプリンタの採用による
 内部圧力損失の低減 








⑤高圧タービン
33



・冷却空気量増加に伴う、空力損失増大の抑制
ー主流と冷却空気の混合による損失予測モデルを基に
 した、冷却孔位置などの調整
ーイタレーションによる翼部強度と冷却性能の両立


・冷却効率の向上による、冷却空気量の増加の抑制

ー翼面への遮熱コーティング
ー折返し型の内部構造によるメッシュ冷却  (動翼)
ー凹凸型の内部構造によるメッシュ冷却(静翼)
ー冷却孔形状の工夫によるフィルム冷却性能の向上
表面形状の工夫による冷却面積の増大と乱流化の
    促進


・第5世代Ni基単結晶合金の採用
ーレニウムやルテニウムの添加量増大による耐熱性
 の向上

・鍛造性と耐熱性を兼ね備えた、Ni-Co基の国産鍛造
 タービンディスクの採用

・タービンシュラウドへのCMCの適用による
 従来比1/3への軽量化及び冷却空気の低減
ーシュラウドへの耐環境性コーティングの適用

・TIT1800℃の実現




⑥低圧タービン
・反転タービンの採用による高負荷・単段化
・単段での高圧力比ファンの回転




⑦アフターバーナ
・保炎器の周方向の構造材排除による構造の
 単純化
・保炎器の半径方向のみの構造材による低圧力損失化



⑧排気ノズル
・CMCの適用による従来比1/3の軽量化



⑨コントロール・補機
・スタータと発電機を統合した、小型軽量で大容量な
 スタータ・ジェネレータの搭載
・180kWの発電能力





2018年7月からIHIの瑞穂工場で所内試験が開始され、7月9日には目標値であるAB非作動の最大推力11tを達成した。8月にはAB作動時で最大推力15tを達成した。

エンジン技術の蓄積により最大推力達成期間は、XF5-1と比べ70%、XF3(型式不明)と比べ90%の時間短縮を果たした。試験にあたっては特に大きなトラブルも無かったという。


今後は2020年3月までに地上性能試験、始動試験、高空性能試験、ステルス性能試験(電波・赤外線)、制御機能試験を予定している。

高空性能試験に関しては札幌試験場のATFを用いる。しかし、建設当時の予算の制約上から計測可能な推力限界が限られており、XF9-1の高空性能を完全には計測できない。
※P-1哨戒機に採用されたF7-10エンジンは札幌試験場のATFで基礎的な高空性能データを取得後、フルパワー時の高空性能試験は米国で行った。試験場所は米国のテネシー州に存在する、米空軍施設であるアーノルド・エンジニアリング・デベロップセンターである。

近年はATFの能力向上にも着手している。
2018年度の概算要求では、大型エンジン試験装置の整備として74億円が要求されたが、予算案では計上が見送られた。

2019年度予算では大型エンジン試験場新設(その1)として約1.4億円が執行された。
続く2020年度概算要求では大型エンジン試験場新設に0.24億円が要求されている。


XF9-1のいう推力目標値に関しては、搭載用エンジンの開発時の仕様に対応できる数値として設定されている。
また、XF9エンジンは将来推力を、AB非作動時13t・AB作動時20tと設定している。


«まとめ»
将来戦闘機の開発に向けて、国内開発エンジンが候補の1つとして資するためプロトタイプエンジンの試作を行った。
目標性能は達成し、2020年3月まで関連試験を行う。

今後の予定はXVN3-1などを用いて推力偏向試験などを行う。その先は将来戦闘機のスケジュールと内容次第である。

開発企業であるIHIは2019年5月時点で将来戦闘機用エンジンの国際共同開発を目指すとしている。この国際共同開発の詳細に関しては現時点で不明である。

余談ではあるが、XF9-1の設計に関わったIHIエンジニアの冨岡義弘は
「XF9-1は納期には間に合ったが、仕様策定や設計が遅れ、製造担当にしわ寄せが行ってしまった反省がある」と述懐している。




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«機体構造関連(2-1)»

15
  1. ウェポン内装化胴体構造の研究
  2. ウェポン内装化空力関連技術の研究
  3. ウェポン・リリースステルス化の研究
  4. ステルスインテークダクトの研究
  5. 機体構造軽量化技術の研究 
  6. 将来戦闘機用小型熱移送システムに関する研究



[ウェポン内装化胴体構造の研究]

04
2010〜2011年

«概要»
 将来の戦闘機におけるステルス性向上及び機動性向上等を図るため、ウェポン内装化胴体構造について研究を行い、技術資料を得る。



[ウェポン内装化空力関連技術の研究]

21
19
2010〜2015年

«概要»
 戦闘機等のステルス性向上を実現する際に不可欠な内装ウェポン分離時の搭載物等に作用する空力現象の解明に関する研究

«背景・目的»
 将来の戦闘機にはステルス性や高速性が求められる。従って電波反射源や空気抵抗の元となる兵装は内装化しなければならない。

 日本における航空機への兵装の内装化は既にP-1哨戒機の開発で、低速風洞による風洞試験結果を用いた設計手法が確立された。しかし、P-1は亜音速機である。

 戦闘機が想定する遷・超音速域でウェポンベイから搭載物を分離する場合、ウェポンベイ周りは衝撃波等を伴う複雑な流れ場である
ため、離れていく搭載物の挙動に流れ場との干渉による変化が生じ、母機と接触するような危険な状況が生じる可能性がある。

 ウェポン内装化を実現するためには、搭載物の分離時におけるウェポンベイ周りの空力現象を把握する必要があった。

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機首下の爆弾槽を開いたP-1哨戒機

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遷・超音速でのウェポン分離
衝撃波の発生や複数の異なる速度の
気流の存在など複雑な流れ場である

«詳細»
 ウェポンベイ周りの空力現象を解明するため、本研究ではKHIを主契約者として2010〜2015年までキャビティ模型(ウェポンベイの部分模型)や分離特性評価装置といった研究試作を行った。

総予算は26.7億円

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研究全体の概要
搭載物分離は上向きで行う

 所内試験としてまず最初に気流に最も影響を与えるキャビティ(空洞)周りの空力現象の把握が目指された。試験の流れとして異なるキャビティ形状を選定し、風洞試験と数値解析との比較・検討を行った。

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キャビティ周りの空力現象解析の全体手順
 
 キャビティ周りの流れ場(キャビティ流)は大きく3つに分類される。試験の一段階目として各キャビティ流の特徴が捉えられる、長さ・深さ・幅の異なるキャビティ形状がそれぞれ選定された。

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キャビティ流の分類

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各流れ場の計測に適したキャビティ形状

 風洞試験では、選定されたキャビティ形状の模型を使い試験が行われた。遷・超音速を想定した高速風洞試験を行うために、札幌試験場の3音速風洞が用いられた。

 試験を通じてキャビティ流によるキャビティ底面の圧力分布や、シュリーレン法による衝撃波の発生状況などのデータを取得した。
※空力現象を解明するには流れ場の可視化が必要となるが、空気は透明体でありそのままだと可視化ができない。空気は密度が異なると光の屈折率が変化する。キャビティ流の場所による圧力の分布(=異なる密度の分布)を利用し光の屈折率の変化を捉える事で、流れ場の可視化が可能となる。この可視化方法がシュリーレン法である。

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風洞試験の概要

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風洞試験の結果

 数値解析では選定されたキャビティ形状を基に、コンピュータ上で試験モデルを作成し試験が行われた。キャビティ形状・速度毎の圧力分布の解析が実施され風洞試験との結果と比較検討された。

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試験条件の概要

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数値解析による結果

風洞試験と数値解析によりキャビティ形状毎の空力現象の解明が達成された。

 次の段階としてより実機に近い環境を想定した試験を行うために、ウェポンベイ扉や搭載物・搭載物の分離を模擬可能な装置(分離特性評価装置:CTS装置)を組み合わせた試験に移行した。試験のためにCTS装置と搭載物の分離特性を評価可能な数値解析ツールが試作され、試験に用いられた。

 CTS装置は母機模型下方支持部と搭載物模型支持部によって構成される。これら装置は母機の前後・ピッチや、搭載物分離の前後・ロール・ピッチ・ヨーといった実機での搭載物分離における挙動が模擬可能である。

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試作の概要と実際の設置状況(再掲)

52
試験装置の詳細

 風洞試験では、内装ベイからの搭載物の分離軌跡を取得することで、内装ベイ等からの搭載物への影響を把握した。また外装された既存搭載物の分離軌跡が取得できることを確認するため、既存母機模型、空対空誘導弾(AAM)搭載物模型及びCTS装置を用いた風洞試験もあわせて実施し実発射試験で得られた誘導弾の軌跡と比較した。

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模型を用いた搭載物の分離の概要

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搭載物模型を用いた試験
こちらは外翼などが無いクリーンな模型である

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AAM-4の模型を用いた分離試験

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外装された搭載物の分離試験
ASM-2の模型を用いている

 試験によるデータ取得後、CFD解析により搭載物が尾部から落下するような運動を行うことを把握した。この結果を反映し適切な適切な初速度及び角速度を与えることで、ウェポンが安全に分離できることが判明した。また、キャビティ形状が搭載物分離に与える影響等も確認された。
 
«まとめ»
 風洞試験とCFDを用いた解析によりウェポンベイ周りの空力現象の解明がなされた。

 この研究の成果は、実際にウェポンベイ扉を開閉し兵装を射出できる、ウェポンベイの設計に活かされる事となった。本研究で試作されたCTS装置はその後の研究にも活かされる事となった。



[ウェポン・リリースステルス化の研究]

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2013〜2018年(画像は当初の予定)


«概要»
 戦闘機のステルス性向上のためRCSを低減し、ウェポン搭載時の機体の空気抵抗を低減することにより、優れた高速性能を実現するウェポン内装化に関する研究

«背景・目的»
 前述の通り、戦闘機のステルス化と高速化には兵装の内装化が必須となる。超音速機の兵装の内装化に向けて、前述の「ウェポン内装化空力関連技術の研究」ではウェポンベイ周りの空力現象の解明を行った。

 本研究ではウェポン内装化空力関連技術の研究で得た空力データを反映しつつ、ウェポンベイ周りの複雑かつ厳しい空力荷重条件下におけるウェポンの短時間かつ確実な分離が可能な、ウェポン内装システムの実現を目指す。

«詳細»
 ウェポン内装システムの研究は、2011年からの所内研究2Aとして開始された。2011年はウェポン内装システム動作についてシミュレーションを実施しシーケンスに要する動作時間等について検討を実施するとともにウェポン内装システムを有する胴体の詳細な技術課題を検討した。

 2013年から「ウェポン・リリースステルス化の研究」として研究試作が開始された。2013〜2017年までMHIを主契約者としたシステム設計と研究試作が行われ、2016〜2017年まで所内試験が実施された。

総予算は48.5億円

 所内試験では最初に、ウェポンベイ構造を持つ母機模型を使った風洞試験により、分離特性の把握を行った。ウェポンベイ構造は、ウェポン内装システムの設計及び分離シミュレーションを通じて設定したウェポンベイ形状に基づく。

 全機風洞試験模型は後述する25DMUを基に製作されているが、主翼形状は26DMUに類似しており、両者の中間的な性格を持つ模型とされている。またCTS 装置を用いて、設計したランチャー射出力等を模擬し、誘導弾の分離軌跡を取得した。

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試作された風洞試験模型
模型表面の丸い部分は圧力センサーとされている

全機風洞模型のウェポンベイ部詳細

 試験を通じて、飛行諸元、誘導弾の搭載形態、射出力等によって、分離軌跡がどのように変わるかを把握するためのデータを取得した。AAMは各種兵装の中でも射出時に最も気流の影響を受けるとされ、AAMの射出を実現できればASMや航空爆弾といった兵装は問題なく運用できるとされている。

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風洞試験時の様子

ANCIENT氏提供
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搭載物模型
ミーティアAAMに酷似している。

 CTS装置による模擬だけでなく、実際に安全にウェポンを分離する必要がある。そのため、設定した射出力で誘導弾を分離するランチャー・システムを試作した。油圧と空圧の両方で作動し、射出は空圧・収納は油圧で行うとされる。

 試験ではランチャー・システムから実際に誘導弾の重量等を模擬したダミーストアを射出し、必要な射出力で射出できているかを確認した。

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試作されたランチャー・システム
空圧と油圧で作動し、射出は高速性に優れる空圧で行う
形状はF-22のLAU-142/Aランチャーに酷似している

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F-22のLAU-142/Aランチャー
下面にAIM-120などの武装がマウントされる

 研究の最終段階では、実大の誘導弾内装システムとしてランチャー・システム、ベイ扉の開閉機構を備えたリグ試験供試体を2017年までに試作した。供試体を取り付ける試験架構には、飛行中にベイ扉を開閉する際に発生する大きな荷重を模擬するための負荷機構を具備している。

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供試体の概要

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実大の誘導弾内装システムの詳細
ランチャー・システムが3つ並ぶ

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ベイ扉の開閉の連続写真

 防衛技術シンポジウム2019ではウェポンベイ扉の開放から模擬AAMの射出の映像が公開された。以下にその映像を示す。

内部にミーティアに酷似したAAMが3発確認できる


«まとめ»
 本研究では、戦闘機が高いGや高速で飛行する環境においても、ウェポンが格納されたウェポンベイ扉を短時間で開閉し、その間に安全にウェポンをリリースし、機体からの確実な分離を実現する技術の研究を行っている。

 数値流体解析(CFD)や風洞試験などを行い、ウェポン内装システムの設計に必要なデータを取得した。それら成果に基づいて実物大のウェポン内装化システムを試作し、航空装備研究所において地上試験を実施している。




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【研究開発詳細(2)】
 研究開発詳細(2)では先述の「将来戦闘機に関する研究開発ビジョン」より以降の、事前の研究開発について述べる。(1)と同様に個人撮影のものは無断転載を禁ずる。

 なお、どの研究も将来戦闘機への適応を想定し、「開発プランの選択肢に資する」目的である。実際の開発内容によっては選択される技術も変化しうるため、ここで述べられる研究全てが必ず適用される訳では無い。


«飛行制御関連»

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  1. 電動アクチュエーション技術の研究
  2. 推力偏向ノズルに関する研究



[電動アクチュエーション技術の研究]

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2015〜2019年

«概要»
 将来の戦闘機に要求される高ステルス性機体形状を実現する方策の一つとして、油圧系統を廃することにより機体形状の設計自由度の向上等を図る電動アクチュエーションシステムに関する研究を行い、技術資料を得る研究

«背景・目的»
 ステルス戦闘機の実現には、内装型ウェポンベイや屈折したインテークダクトなどの配置を考慮した複雑な機体構造が必要となる。艤装の簡素化と機体構造への制約を軽減するため、機器間の接続が電気配線のみで構成される電動アクチュエーションシステムに関する研究を行う。

 従来の舵面・降着装置の動作を行なっていた油圧アクチュエータは、油圧系統の配管設置のために剛性、長さ等を考慮した設計が必要であり機体構造への制約があった。

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油圧アクチュエータと電動アクチュエータの比較
本研究では個々のアクチュエータに独立した油圧接続
をもち、電動モータでポンプを駆動させるEHAを採用
※従来はシリンダの作動のために配管を機体内に這わし、機体側の油圧源からアクチュエータへと油圧を伝達させる必要があった

«詳細»
 電動アクチュエーションシステムの利点として以下の内容が挙げられる。

・油圧用の配管の不要と伴う機体設計上の制
 約緩和
・点検口の削減、機体表面平滑化によるステ
 ルス性への寄与
・整備性の向上
・被弾時の操縦系統への影響局限による生存
 性の向上

 上記利点を実現するアクチュエーションシステムの成立に向けて、以下の技術的課題の達成が目指された。

・耐環境性、耐久性、電磁適合性を踏まえた
 アクチュエータ性能
・モータ部に要求される大電流に対する発熱
 対策
・戦闘機の機体内部に搭載可能なレベルの小
 型軽量化
・高負荷電力対応高電圧電源システム技術

 研究試作(その1)と(その2)で各種研究試作が行われた。全体システムの設計と電源システムの試作はMHIが行った。

 電動モーターには埋込永久磁石型同期モータが採用され、インバータスイッチング方式・モータの駆動方式についてはパルス幅変調によるベクトル制御が行われている。

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基本設計の概要

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研究試作品の概要
 
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試作されたアクチュエータと全体配置

«まとめ»
 将来の戦闘機に要求される高ステルス性機体形状を実現する方策の一つとして、油圧系統を廃することにより機体形状の設計自由度の向上等を図る電動アクチュエーションシステムに関する研究を行った。
総予算は29.5億円



[推力偏向ノズルに関する研究]

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2016〜2023年(画像は計画時のもの)

«概要»
 高運動性が求められ、かつステルス性確保のために操舵面積の縮小等が予測される今後の戦闘機のエンジンに有効である推力偏向ノズルについての研究

«背景・目的»
 将来の戦闘機は高運動性とステルス性の両方の要求が予測される。従来の舵面を用いた空力操舵を上回る運動性を確保するには推力偏向機能が必須となる。また、推力偏向で機体の姿勢制御を代替することは尾翼などの操舵面を削減・縮小する事が可能となり、無尾翼機の姿勢制御やステルス性の向上にも寄与する。

 以上の事からステルス性と高運動性を両立する従来の排気ノズルに代わる三次元推力偏向ノズルが必要である。

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推力偏向による利点

«詳細»
 将来の戦闘機の選択に資する、推力偏向ノズルを実現するべく以下の目標の達成を目指している。

・XF9-1級の大推力エンジンの排気ジェットを
 全周20度偏向させるために必要な三次元
 可変機構技術の確立

・推力偏向ノズル故障時においても、排気ノ
 ズル面積が急減することによってエンジン
 が不安定作動となることを防ぐとともに、
 推力偏向時におけるアクチュエータ固着な
 どの故障によって発生する非対称推力を極
 力打ち消すためのノズル制御技術の確立

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基本設計の概要
全周20°に渡っての推力偏向が可能

研究試作ではXF9-1エンジンに装着可能な3次元推力偏向ノズルが試作された。設計期間短縮などの効率性と経費削減のため、XF9-1の排気ノズルに関する基本的な構造、材料、制御等に関する設計成果を活用している。

総予算は41.6億円

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試作品の概要

MAST Asia 2019で展示された試作品(XVN-3)の模型
※機構として青色のアクチュエータ-青色の推力偏向リング-ノズルと接続されている。アクチュエータの伸縮に合わせ、リングを介してノズルの向きと角度を偏向する事ができる。これが本試作品の推力偏向の仕組みである。
Yasuおすぎ氏提供
IMG_20190701_010356
同じくMAST Asia 2019での模型
※前述の通り、アフターバーナー機能を有する戦闘機用エンジンはノズルのコンバージェント/ダイバージェントを行う必要がある。そのため、本試作品では水色のアクチュエータが伸縮を行う事でリングを介しノズルのコンバージェント/ダイバージェントを行う。

«まとめ»
 高運動性とステルス性の両立に寄与する三次元推力偏向ノズルに関する研究を行い、XVN-3という推力偏向ノズルの試作品を試作した。研究目標の達成のために2023年まで所内研究を行う予定である。


«コラム:推力偏向パドルと推測偏向ノズル»
 先の先進技術実証機では、全周方向に推力を偏向する3次元推力偏向パドルを採用した。
しかし先述の通り先進技術実証機の後からも、同じく全周方向に推力を偏向する3次元推力偏向ノズルの研究が行われている。

 この2つの違いとして、構造の違いが挙げられる。

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先進技術実証機の推力偏向パドル付近
XF5-1は機体フレームの内部に収められている

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XF5-1の後部写真
ノズルのダイバージェント/コンバージェントを行う

 先進技術実証機の推力偏向パドルでは、パドルによる偏向機構部は機体フレームに接続されている。パドルは推力偏向のみを行う。

 ノズルのコンバージェント/ダイバージェントは、機体フレーム内部に収められているエンジンの尾部の動作機構で行われる。

46
XF9-1への装着を考慮したXVN-3推力偏向ノズル

 一方、推力偏向ノズルは偏向機構がエンジン本体に取付けられている。ノズルは偏向機構により推力を偏向する他、ダイバージェント/コンバージェントの役割も担う。

 よって先進技術実証機では推力偏向パドルが採用されたものの、必ずしも将来戦闘機が推力偏向パドルを採用するという訳では無い。






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