«アビオニクス関連(2-1)»

IMG_20190716_201211

  1. 低RCS目標を見つけるGaN送受信モジュール
  2. アンテナのフレキシブル化技術の研究
  3. 先進統合センサ・システムに関する研究
  4. 赤外線画像の高解像度技術に関する研究
  5. 次世代赤外線センサ技術の研究 



[低RCS目標を見つけるGaN送受信モジュール]

32
2011年(発表年)

«概要»
送受信モジュールを構成する保護回路をGaNスイッチに置換することにより、送受信モジュールの高性能化を図る研究

«背景・目的»
レーダの送受信モジュールは高い電力を作り出す送受信系と、受信系を保護する保護回路から構成される。

レーダは探知距離の増加や巡航ミサイルなど低RCS目標の探知の必要性から、性能に直結する送受信モジュールの送信系や受信系の高出力化が目指されてきた。しかし、保護回路の限界から高性能化には課題があった。

30
これまでの送受信モジュールの課題

送受信モジュールのさらなる高出力化と高性能化のため保護回路を、優れた特性をもつGaNスイッチに置換する研究を行う必要があった。

07
GaNスイッチの利点

«詳細»
高性能な送受信モジュールを実現するため、最初に研究課題であるGaNの試作と測定・評価を行った。

GaNスイッチの測定・評価では、優れた漏れ電力の抑圧度と挿入損失を有していることを確認した。(100MHzに於いて)

46
漏れ電力の抑圧

43
挿入損失の低減

GaNスイッチの計測・評価後は送受信モジュールの試作が行なわれ、こちらも測定・評価が実施された。

測定・評価ではLバンドにおいて世界最高レベルである、200W以上の送信電力を有する事が確認された。

37
試作された送受信モジュールの概要

24
送受信モジュールの測定結果

«まとめ»
本研究の実施により、GaNスイッチを有する高性能な送受信モジュールの実現が達成された。本研究の成果は低RCS目標の早期探知が可能なレーダの開発に資するものである。



[アンテナのフレキシブル化技術の研究]

1310_1_img1
08
2010〜2012年

«概要»
1 種類のアンテナで様々な曲面形状に適応できる一次元方向で任意の曲率に湾曲可能なフレキシブルアンテナの実現に関する研究

«背景・目的»
航空機のレーダは平面アンテナの場合は機外に搭載する必要がある。機体形状に適合したコンフォーマルアンテナも、それぞれの搭載部位に合わせた専用設計が必要になる。

機体への搭載性を改善するため、一次元方向で任意の曲率に湾曲可能なフレキシブルアンテナの研究を行う必要があった。

«詳細»
研究では、以下のような概要のフレキシブルアンテナが試作された。

・Xバンドで動作する128素子の空冷アクティブフェイ
 ズドアレイアンテナ
・厚さ約3cmの薄型アンテナ
・1次元方向に湾曲が可能

1310_1_img1
試作されたフレキシブルアンテナ

試作されたフレキシブルアンテナは以下のような特長を有する。

①形状適応性
・湾曲を考慮した独特の構造
・湾曲状態における波面の位相ずれの補正
・機体形状毎の専用設計不要かつ機体形状に
 合わせた、1次元方向に任意の曲率に湾曲が
 可能

35
アンテナ構造

画質が粗いため構造について補足を行うと

・表面
オレンジ:反射版
黒:走査切替スイッチ
灰色(黒の横):アンテナ素子
灰色(黒の下):?電回路(?が不明瞭)

・裏面
緑:プリント基板
赤:送受信モジュール

以上で1素子を構成する。隣接する素子の、アンテナ素子-走査切替スイッチ-?電回路の接触部は可動が可能であり、湾曲機能を有す。

湾曲状態における波面の位相ずれの補正に関しては以下のようなプロセスで行う。

①アンテナ表面のセンサにより曲率を算出
②算出した曲率から各素子の位置座標を計算
③指定したビーム指向角に垂直な波面を形成
 するよう、各素子の位相量を調整

01
補正の仕組み(先述の説明の③では
画像中の③・④のプロセスを統合している)

②軽量薄型
・分散配置による大口径化と探知距離の延伸
・大面積化が容易
・構造強度など搭載制約条件の緩和

③低消費電力
・外気による空冷が可能(ただし大出力化に
 よる送信は困難)
・電源等の搭載制約条件の緩和


試験では電波暗室において、湾曲状態と平面状態のアンテナパターンの測定を行った。
測定の結果、指定した方向にビームが形成され、波面補正が有効に機能していることを確認した。

1310_1_img2
電波暗室内でのアンテナパターン測定の様子

29
アンテナパターンの測定結果
(青:平面 赤:波面補正なし 緑:波面補正あり)

«まとめ»
搭載性に優れた湾曲可能なフレキシブルアンテナの試作と試験を行った。試験では湾曲状態での波面補正による有効性が確認された。



[先進統合センサ・システムに関する研究]

img2019_soubi_koukuu03
35
2010〜2018年

«概要»
レーダ、ESM、ECM機能を持つRFセンサを戦闘機に搭載し、低RCS目標に対する実環境下での探知、追尾能力について研究する。

また、RFセンサとEOセンサを含めた協調制御及び統合処理による探知、追尾能力の向上についての研究

«背景・目的»
周辺国ではステルス機の開発・配備が進められている。ステルス機は反射する信号が極めて制限されており、これらへの対処には困難が予期される。

ステルス機の対処には、ステルス機からの反射もしくは輻射する微小な信号を捉える必要がある。そこで、自機に搭載されるレーダ・EW機能をもつ共用開口RFセンサとIRSTなど複数のセンサ情報を統合する。

電波並びに光波など、ステルス機から反射もしくは輻射する微小な信号を探知、追尾、さらに対処可能とする技術を確立する必要があった。

«詳細»
上記目標を達成するために、多機能レーダ及びIRSTを試作しセンサ単体での試験を行う。その後は試作されたセンサを実機に搭載して飛行試験を行う事で機体トータルシステムとしての成立性を飛行実証する流れである。

研究は176.5億円の予算のもと、各センサの試作及び機体側の改修をMHIが主契約者として実施した。

研究試作では、センサ部の試作とXF-2を試験母機とする機体の改修が以下の通りに同時並行して行われた。


研究試作(その1)
①システム設計
・先進統合センサ・システムのシステム構成
 等の設計
・先進統合センサ・システムのレーダ、
 ESM、IRSTの協調制御及び統合処理を検討
 するための統合処理検討用ソフトウェアの
 製作

②機体改修設計
・先進統合センサ・システムを試験母機に搭
 載し、インテグレーションするための母機
 改修設計等

当初(2009前後〜2011年頃)はF-15を先進統合センサ・システムの試験母機として想定していた。しかし、2012年では試験母機はF-2に変更されている。

変更された理由としては本事業によるF-15改修時のライセンス技術の使用目的について、ボーイング社より疑義を示され、米国に確認を求めたところ、議論が長期化し契約履行期間内に結論を得ることが困難となったことによる。F-15のライセンス技術資料を使用する作業について削除する変更契約を実施し、試験母機はXF-2に変更された。

防衛省は試験母機の変更による事業への影響はないとしていたが、本件の関連は不明なものの研究完了予定時期が当初予定の2016年から2018年へと延長されている。

32
F-15を試験母機とした当初の構想
IRSTを含めて内装化されている

研究試作(その2)
①システム細部設計
②送受信モジュール部及び電源の製造
③機体改修細部設計

研究試作(その3)
①高性能センサ及びIRセンサの製造
②機体改修キットの製造

研究試作(その4)
①先進統合センサ・システム及び各種専用試
 験装置の製造
②機体改修部品及びOFPの製造


試作された先進統合センサ・システムの概要と特長を以下に示す。なお、先進統合センサ・システムにはスマートRFセンサの研究成果が反映されているという。

・GaN半導体による小型化、高出力化、広帯域化、
 高効率化
 ※AVIATION WEEKによると当センサのGaN素子は東芝製とされている

・他国第5世代機比で1.5倍のレーダ探知性能
 ※どの第5世代機が基準かは不明である

・ブロック化モジュールによるスケーラブル構造

・1つの開口面によるレーダ、ESM、ECMなどの多機
 能性

・測距能力に優れランダムスキャンによる低被探知性
 を有するレーダ

・マルチビーム制御による広範囲監視と高精度な測角
(方探)が可能かつ低探知性に優れたESM

・高精度な測角と追尾が可能かつECCM性と低被探知
 性に優れたIRST

・異なる特性を持つ、各センサの状況に応じた最適な
 併用と外部センサを含めた統合信号処理及び航跡情
 報の統合表示

IMG_20190716_233328
先進統合センサシステムの概要

IMG_20190717_001223
先進統合センサシステムの全体模型
電源部には5つの接続部が確認できる

AVIATON WEEKより転載
10
先進統合センサ・システムの開口部
ブロック化モジュールによるスケーラブル構造
空中線の表面にモザイクがかけられている

先進統合センサ・システムを試作後、所内試験においては、まずセンサ単体での性能確認試験を行った。試験はレーダ電子戦シュミレータで行われた。(当施設の詳細に関しては多機能RFセンサの項目を参照)

57
性能確認試験中のセンサ部
灰色のレドームが取り付けられていられる

レドームに関しては本研究試作では試作が明記されていない。公式文書では費用削減のため過去の研究成果を積極的に取り入れるとし、「アクティブ・電波・ホーミング・ミサイル搭載に関する研究等の成果物を貸付文書として活用している」とある。

この他にも、「将来アビオニクスシステムの研究試作における納入品を貸付品とする」としているが、具体的な適応箇所は不明である。

33
アクティブ・電波・ホーミング・
ミサイ搭載に関する研究」で試験中のF-2

2018年10月31日には先進統合センサ・システムを搭載したXF-2が飛行を行った。機体側の改修を最小限に抑えるため試作されたIRSTはASM-2の筐体を用いて機体外部に吊るし、試験を行う。IRSTは白色のASM-2のシーカー部を換装する形で装着されており、右翼側の青色のASM-2はダミーである。

IMG_20190717_002137
先進統合センサ・システムを搭載して飛行を行うXF-2
レドームが通常時の白色から灰色に換装されている

40
通常時のXF-2
XASM-3の搭載試験を行っておりレドームは白色である

11月の国際航空宇宙展2018では先進統合センサ・システムの空中線部(実物)が展示された。XF-2に搭載されたものを分解し輸送したのか、飛行時の10月31日時点ではレドームだけ換装してまだ取り付けられていなかったものを展示したのかは不明である。

IMG_20190716_201211
JA2018で展示された空中線部

ら氏提供
04
同展での空中線部(裏面)
液冷による冷却用と思われる管が取り付けられている
※赤の5つの接続部が電源用で黄色の2つの接続部が励振受信機の接続部だと思われるがあくまで作者の推測である

2019年3月26日のANNの放送では実際に先進統合センサ・システムが、XF-2に搭載されている様子が放映されている。

20
XF-2に搭載された空中線部
赤色のカバーで覆われており、黄色の機種部には
冷却用の管と思われる接続部や黒色のところ
から伸びる電気系統と思われしき管が確認できる


防衛省によると飛行試験の結果は良好だったと2019年9月のAVIATION WEEKは報じた。同記事内では以下のように述べている。

・同世代機の中でも出力は最高レベル
・防衛省は詳細は明かさないものの、理論値にい非
 常に高い出力を達成した事を示唆
・試験後の予定では試験結果の検証を行う事にって
 いるが、追加の試験飛行を実施する可能性がある


«まとめ»
異なる特性をもつレーダ、ESM、IRSTを統合処理しステルス機の探知を目指す先進統合センサ・システムを試作した。実機に搭載しての飛行試験を含め所内研究をおこなっている。





[赤外線画像の高解像度技術に関する研究]

37
05
2014〜2019年

«概要»
戦闘機等の各種プラットフォームに搭載される赤外線画像装置の高画質化に必要となる要素技術について、実環境下でその成立性を検証し、技術資料を得る研究

«背景・目的»
戦闘機に搭載されるFLIRは夜間及び悪天候時の地形認識による航法や目標標定用として、戦闘機及び各種プラットフォームで活用されている。

一方、各種目標のステルス化・地上レーダの発展など対抗手段も発展している。これらに対しFLIRはより遠方からの探知や識別が必要となっており、性能向上が期待されている。

これらの事からFLIRの高解像度化に必要となる要素技術について、実環境下でその成立性を検証し、技術資料を得る必要があった。

本研究の実施により、赤線画像装置における高精度空間安定化技術及び望遠時高解像度化技術、並びに広覆域を有する光学系実現に関する技術の取得を目指す。戦闘機以外の各種プラットフォームへの適用も期待される。

37
FLIRの高解像度化による運用構想


«詳細»
本研究では実環境化でのFLIRの高解像度化技術について確認するため、先述の外装型FLIR装置をベースに研究を行っている。

搭載母機に関しても外装型FLIR装置の搭載母機を活用し、既存品の外装型FLIR装置の活用を含めてコスト削減を行っている。

45
F-2に搭載された外装型FLIR装置(再掲)
研究試作では当装置がベースとなる
当装置の概要は2波長赤外線センサの項目を参照

本研究は17.4億円の総予算のもと、MELCOを主契約者として研究試作及び所内試験を実施した。

遠方から高い解像度を有する赤外線映像の撮影するには、航空機の過酷な振動環境下で画像ブレの無い映像を撮影する必要がある。そこで本研究では機体の飛行時の振動を補正する、精密視軸走査器を試作した。

07
精密視軸走査器の概要

本装置は高速・高精度に視軸を可動させる精密視軸走査ミラー(FSM)を特徴としている。赤外線センサシステムに組み込む事で機体振動を補正し、視軸を安定化する事で遠方目標への視認性を向上させる。

13
FSMの構造

研究試作では「赤外線画像高解像度化実験装置(搭載型)の研究試作」という名目で、システム設計の後に精密視軸走査器が試作された。

28
試作された赤外線画像高解像度化実験装置
八角形のミラーが確認できる

26
展示された精密視軸走査器
ミラーは取り外されている
防衛技術シンポジウム2019より

所内試験ではシュミレーションによる画質改善イメージの確認と振動試験による視軸安定化精度を確認した。試験の結果、振動による視軸ブレを1/5以下に安定化するのを確認した。

13
FSMによる画像及び視軸ブレの抑制

所内試験の終了後、2018年に研究を完了した。

«まとめ»
各種目標のステルス化と地上レーダなどに対処するため、戦闘機を含む各種プラットフォームに適用可能なFLIRの高解像度化に関する研究を行った。




[次世代赤外線センサ技術の研究]

56
43
2020〜2025年

«概要»
現有センサより遠距離からの画像情報収集及び高い目標探知識別を可能とする、高性能な赤外線センサに関する研究

«背景・目的»
島嶼部侵略や武装工作船等、厳しさを増す安全保障環境において、広域かつ常続的な監視の強化や宇宙領域を活用した情報収集等が求められる。その手段の一つとして、高性能な光波センサを搭載した航空機が有効である。

しかし、国内外に存在する既存のセンサ技術の改良では要求される高性能な光波センサは実現し得ない。
そこで高性能な光波センサの実現のため、より高感度・広帯域な2波長1素子の赤外線素子技術を確立する必要がある。

固定翼哨戒機(P-1)能力向上に本研究の成果を反映させるため、総事業費を31億円として2020年度から開発に着手する。2025年に所内試験を終える。
本技術の優位性を確保し、海外とのバーゲニングパワーの獲得を見込む。既存の赤外線センサの置き換えや、今後開発が予期される装備品にも必要な技術である。

※所内試験の試験研究費は別途計上する。

56
高性能な赤外線センサの運用構想

«詳細»
2020年予算では本研究に15億円が計上された。
本研究では高性能な赤外線センサの実現するため、以下の2つの技術について研究を行う。

①高感度・広帯域検知素子技術
量子効率が高いタイプ2超格子構造の特性を活かし、2波長帯(遠赤外/中赤外)を1素子で検知し、目標の探知距離等の延伸が実現できる高感度かつ広帯域な赤外線検知素子の作製に関する技術を確立する。

②読出し回路の低ノイズ化技術
赤外線検知素子から出力されるアナログ信号をデジタル値に変換する機能を読出し回路内に内蔵することにより、ノイズの低減を図る技術を確立する。
※量子効率: 受光素子の性能を示す指標で、入射光に対する光電子数で定義される。この量子効率が高いほど赤外線検知素子の感度が高い。

研究期間の短縮や費用の抑制等、効率化のために既述の2波長赤外線センサにおける成果を最大限活用する。

試作品として、広帯域2波長1素子の赤外線検知器(検知素子、読出し回路)及び冷却部から構成される広帯域検知器アセンブリを製造する。
試作段階でP-1哨戒機を始めとした各種プラットフォームへの適用を考慮し、研究成果の早期具現化を目指す。

42
広帯域センサの概要

«補足»
2019年度概算要求では常続監視用光波センサ技術の研究が計上されたが、同年度予算では計上が見送られた。その内容はここで述べた次世代赤外線センサ技術の研究とほぼ同一である。総事業費は40億円で、25年度に所内試験を終える予定であった。

研究内容については次世代赤外線センサ技術の研究で述べた2点の他に、広帯域波長処理技術も対象となっていた。
※予定されていた広帯域波長処理技術 : 赤外線検知素子の分光感度及び大気の窓を最大限活用可能な検知波長帯に適した広帯域光学系により目標の分光強度を増加し、目標探知距離等の延伸を実現する。
最適な広帯域光学系による目標抽出性能の向上を図る。

«まとめ»
各種プラットフォームへの適用を目指した、高性能な広帯域赤外線センサを開発する。