【研究開発(3)】
研究開発(3)では次期戦闘機と関わりの深い、無人機やミサイル技術について述べる。
個人撮影の画像は無断転載を禁ずる。
本稿では中〜大型の固定翼無人機を中心に扱う。回転翼型、小型、超大型の無人機はここでは記述しない。
new!
«無人機関連(1)»
1. 次期戦闘機と無人機
2. 日本の無人機研究史(1)
・無人機の研究
・低速標的機の導入
・ロケット推進標的機
・BQM-34系列の導入
・研究用RPV
・チャカ系列の導入
・J/AQM-1
3. 日本の無人機研究史(2)
・VTOL-UAVの研究
・UF-104
・多用途小型無人機
・無人機研究システム
«次期戦闘機と無人機»
この項目では、次期戦闘機(F-2後継機)と無人機の関係について述べていく。なお、ページ全体での無人機は無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Veicle)の事を言う。
次期戦闘機と無人機の連携は、2010年の将来の戦闘機に関する研究開発ビジョンで初めて記述された。次期戦闘機は、そのコンセプトが初めて提唱された時から無人機との連携を考慮している。
次期戦闘機の無人機を含んだ戦闘コンセプト
上の画像からも分かる通り、無人機は敵ステルス機への対抗と数的な劣性を補うアセットとして位置づけられている。画像の無人機は敵航空機を探知するセンサの役割を果たす。
次期戦闘機は無人機の群制御を行い、センサとして活用する。画像の戦闘コンセプトは2040〜2050年頃に実現すると見積もられている。
2016年8月31日には将来無人装備に関する研究開発ビジョン〜無人航空機を中心に〜が発表された。詳細は別稿で述べるが、自律して有人機の戦術を支援する無人機が記述されている。
第4分類に分類される
この第4分類の無人機は、自律技術と高機動技術を含め2030〜2035年頃に技術課題を解明し得る見込みである。
次期戦闘機の開発では、「次世代技術」も搭載できる拡張性の確保が重点事項の1つである。その次世代技術として、戦闘機を支援する遠隔操作型の機体との連携が明記された。
2020年度予算では次期戦闘機の関連経費として、遠隔操作型支援機技術の研究が計上された。この研究自体は2019年から開始しており、各種有人任務の支援を行う支援機の構成要素技術を実証・確立する。
詳細は別稿の[遠隔操作型支援機技術の研究]を参照
«日本の無人機研究史(1)»
日本の無人機研究史では日本の無人機の研究を中心に述べていく。海外から導入された無人標的機も先駆的役割を担っているため、その歴史もここで述べる。
[無人機の研究]
防衛庁技術研究本部による無人機の開発は、1954年から開始された「無人機の研究」まで遡る。この研究では液体ロケット推進の無人機を試作した。
1962年に行われた試験では、デルタ翼・ロケット推進型・指令操縦式の無人機をヘリコプター懸吊状態から発進させた。1回の飛行に成功しシステムの成立性を確認して終了した。
当時の先端技術を活用しながらも、システム指向の研究であり、将来の無人機技術の課題を明らかにした。
「無人機の研究」が終了してから10年以上は要素研究の時代を経ることとなる。
[低速標的機の導入]
一方、「無人機の研究」が行われる中で海外(米国)の無人標的機の導入も進められた。1957年には陸・海自衛隊の対空射撃訓練用として低速標的機が導入された。
外見や諸元から、米陸海軍で射撃訓練用に採用されたOQ-19/KD2Rが基と思われる。当初はRadioplane社が開発と生産を担っていたが、1952年にノースロップ社がRadioplane社を吸収し事業を継続した。
通称RCAT(Radio Controled Aerial Target)
95馬力のレシプロエンジンで最高速度361km/hを発揮する。その他の諸元は画像の通りである。
RCATは1961年には日本電気(現NEC)でライセンス国産が行われ、途中からヤマハが生産を引き継いだ。
[ロケット推進標的機]
1960年から1963年にかけて技術研究本部では空中発射式のロケット推進標的機が開発されたが、装備化には至らなかった。
[BQM-34系列の導入]
1970年には、BQM-34-AJ(ファイアービー)のライセンス国産が富士重工(現SUBARU)で開始された。BQM-34はライアン社が1950年代に標的機として開発し、米陸海空軍で広く採用された。
ベトナム戦争では偵察機材を搭載した改修機が任務に従事するなど、標的機に留まらない活躍を見せた。この時代には標的機以外の任務に従事する無人機をRPV(Remotely Piloted Vehicle)と呼称するようになった。
改修機は写真偵察、ELINT、COMINT、ビラの散布、
SAMレーダーの探知識別など幅広い活躍をした
BQM-34Aは全長7m、全幅 3.93m、ターボジェットエンジンを搭載し、Mach0.96で飛行する。海上自衛隊では訓練支援艦「あづま」に搭載され、艦対空ミサイルへの標的機として運用された。
海上自衛隊は原型のBQM-34A、ライセンス国産のBQM-34-AJ、その改良型のBQM-34-AJ改の順に更新した。
[RPVの研究]
1976年には戦場での偵察任務を想定したRPVの研究(研究用RPV)に着手した。アビオニクスの小型化・柔軟性のある運用に対応するコンピュータ制御及びデータ伝送技術に限界があり、開発は難航する。しかし、基礎技術の蓄積に大きく貢献した。
1979年から1981年には引き続き、本格的なシステム研究用のRPVを研究した。1980年には主契約者の富士重工が研究試作一式を技術研究本部に納入した。
研究用 RPVは画像の通り、無尾翼で推進式のレシプロエンジンを装備し、ロケットブースターによるカタパルト発射式、パラシュート回収(地上、海上)方式である。TV カメラシステムを搭載して地上に映像を伝送する。誘導制御は地上でのプリプログラムで行われる。
飛行試験は1984年までに5回実施した。
本件のシステム構成及び技術は、後の無人機の研究でも部分的に踏襲され、日本の無人機の原型とも言える。
RPVの信頼性・回収方法の改善など、技術課題の習得が行われた時期でもある。
[J/AQM-1]
1980年からは国産の無人標的機として「自律飛行型標的機:J/AQM-1」の開発が始まった。1987年には量産が開始され、富士重工が航空自衛隊に納入した。
画像の通り、機体下部にポッド式のターボジェットエンジンが配置されている。なお、研究用RPVでの誘導制御技術は本件に活用された。
«コラム:国産無人標的機のその後»
J/AQM-1で標的機の国産化に成功した。その後の1997年には、改良型の航空機模擬標的:J/AQM-1Bの納入が富士重工によって開始された。外見はJ/AQM-1とほぼ同様であり、翼端にフレアを装着できる。
2006年から2011年にかけてJ/AQM-1の一部代替として空対空用小型標的が開発された。川崎重工が主契約者である。
機体外観
機体構成
空対空用小型標的が開発された背景として、J/AQM-1では一部訓練で性能過大なことや防衛予算の圧縮によるコスト低減への要求がある。そのため、機体や制御装置の低コスト化が徹底されている。
AQM-1/Bの知見-特に誘導制御方式は、富士重工によると同社の多用途小型無人機・無人機研究システムに反映された。標的機のライセンス国産及び国産化は、日本の無人機技術に少なくない影響を与えたと言えるだろう。
«日本の無人機研究史(2)»
[チャカ系列の導入]
海上自衛隊は1981年度予算でノースロップ社製のMQM-74C(チャカII)を購入した。1982年11月からは「あづま」で運用を開始した。先程のBQM-34系列は高価なことから、より安価なチャカ系列を導入した背景がある。
陸空自衛隊は標的機としてチャカ系列であるBQM-74/E(チャカIII)を導入している。
BQM-74E
米海軍が1960年代に新型無人標的機を要求し、チャカ系列は開発された。チャカⅡの諸元は全長 3.87m、全幅 1.76m、ターボジェットエンジンを搭載し、最高速度は900km/hである。
現在の米海軍はより高速なBQM-74E(チャカIII)に更新している。海上自衛隊も1993年からチャカIIIに更新を開始した。
日本での運用では主契約者が日本電気(株)、機体胴体は富士重工業(株)、整備はヤマハが担当している。
なお、陸上自衛隊向けの特殊な派生型としてチャカRが存在した。BQM-74Cを基に偵察型として改造され、第101無人偵察機隊に配備された。
行動半径の短さと写真現像に時間がかかるなどの理由から、2機が試験的に配備されるに留まった。
※チャカRが配備される前の隊名は第301無線誘導機隊であった。2013年にFFRSを装備する北方方面無人機偵察隊に改編されるに伴い、チャカRは退役した。
[VTOL-UAVの研究]
1985年から2005年にかけてはVTOL-UAVの研究が実施された。主契約者は富士重工である。
研究の背景として、従来の標的機及びRPVはパラシュート回収が行われていたが着地点の不確実性や機体の損傷が問題となっていた。
そこでテールシッター方式による、定点での発進と回収を目指した。ロケットで射出され飛行し、水平飛行から垂直姿勢に移行して回収される。
技術確認用として多数のテスト及び試作機が作られたが、発進から回収までの一連の飛行を実証するには至らなかった。(後述)
本研究での主な技術課題としては
①垂直姿勢を保持する飛行制御技術
②水平飛行から垂直姿勢への遷移飛行技術
③機体誘導システム
④回収装置
の以上4点が挙げられる。
①と②の姿勢制御は以下の3つの制御で行う。
❶3軸反作用制御システム(RCS)
RCSの概要
水平飛行時のピッチアップとロールは主翼にあるエレボンで行う。しかし、垂直姿勢時はエレボンによる制御は期待できない。
そこでエンジンの抽気(Engine Bleed-Air)を主翼端部と機首及び尾部から噴出し、機体を制御する。
❷推力偏向ノズル
推力偏向機構の概要
当機構は垂直姿勢時の機体制御を担う。推力偏向はRCSによるロール制御と同時に行う。
構造としてはセラミック球面ベアリングがノズル根本に存在し、2本のアクチュエータで偏向する。
❸クロスベーンシステム
クロスベーンの機構
エンジンノズルの出口に十字形に4枚のベーン(羽根)が配置されている。4枚のうち3枚のベーンでモーメントを発生させる。残りの1枚は推力の調節に使われる。
③の機体誘導システムの概要について述べる。
機体誘導システムの構成
VTOL-UAVには独立したGPS/INS航法装置が存在する。地上装置は中距離ではレーザ測距で、短距離では複数台のカメラで機体のオレンジ帯を捉えてUAVの位置情報を取得する。
機体の位置情報は地上装置から機体に伝送され、機体側の航法情報と共に飛行制御コンピュータに送られる。
④の回収装置も同様に述べる。
回収装置の概要
回収装置は形式の異なる3つが試作された。トラップ型、ハープ型、ロープ型があり、この中でトラップ型が最も優れた性能を示した。
VTOL-UAVの研究では構想も含めると8つのタイプが存在する。
1つずつ挙げると
①VTOL-UAV実機案
機体の外観及び諸元
機体の諸元は画像の通りであるが、後の多用途小型無人機及び無人機研究システムを上回る機体規模である。
デザイン案のみで実機は作られていない。
②屋内姿勢制御モデル
画像は残っていない。無線操縦式の小型の実験機と伝えられている。シミュレーションで推力偏向について確認したあとに、本機を用いて推力偏向を行い実証した。
1988年から1989年の事である。
③屋内位置制御モデル
試験時の様子
カメラによる短距離での機体誘導制御を実証した。機体には電球が取り付けられており、複数のカメラは光を捉えて測距を行う。
この試験で手放し状態の位置制御を実証した。
1992年から1993年のことである。
④リグ試験(垂直姿勢制御)
試験時の様子
リグ試験のシステム構成
リグ試験では垂直姿勢時の姿勢制御技術-特にRCSが試験された。ピッチ、ロール、ヨーの3軸ジンバルであり、上昇と下降用のレールも備える。
リグ内の機体のエンジンはJ/AQM-1で使用されたものの派生型である。
試験期間は1990年から1992年の3年間
⑤遷移飛行実験機
機体の外観
機体データの計測
この遷移飛行実験機は水平飛行から垂直姿勢への移行を試験した。無線操縦式であり飛行データや位置情報、飛行経路を収集した。
試験期間は1991年から1992年である。
⑥フルスケール回収ダミー
機体の外観
フルスケール回収モデルでは先の回収装置について、3つの異なる回収アタッチメントを試験した。
ジェットエンジンを備える。
プローブ式、銛式、ホック式の3つが試験対象である。(外観は回収装置の項目を参照)
試験期間は1993年から1995年
⑦フルスケールホバー試験機(フェイズ1)
飛行試験の様子
機体の概要
試験内容は垂直姿勢時の機体制御、短距離機体誘導システム、回収作業の3点を実証した。
試験期間は1994年から1996年の3年間
フェイズ2では中距離での機体誘導用に、レーザリフレクターとGPS/INS航法装置が取付られた。
試験期間は1997年から2000年
VTOL-UAVは、最終的に発進から回収までの一連の飛行を自律で行うには至らなかった。テールシッター式の無人機もこれ以後は開発されていない。
しかし、本件の成果の一部は携帯型飛行技術と融合し後の球形飛行体の着想になった。
携帯型の無人機は本稿の趣旨から外れるため、ここでは記述しない。
[UF-104]
1988年、既に用途廃止となったF-104Jを無人機化し高機動標的機に改造する計画が開始された。この無人機化されたF-104Jは「UF-104」の制式名称が与えられた。
研究の背景には、航空自衛隊が対米空軍のQF-4のような実機標的を用いた実弾射撃訓練を要求したのがある。
有人機のエアフレームを流用し対戦闘機訓練に必要な高機動性、実弾射撃訓練に必要な標的の無人化 以上2点の両立を図る。
三菱重工を主契約者とし、2機の試改修と12機が量産された。開発には米国のハネウェル社とモトローラ社が参加し、三菱重工と共同で推進した。
運用者は硫黄島基地隊の無人機運用隊である。1994年から運用を開始し、1997年に成功裏に運用を終了した。
F-104の無人化には以下が課題として挙げらる。
①米国製の機体で詳細な機体データが日本国内に無い
②設計が古く、無人化とそれに伴うFBW化適性の欠如
③着陸速度が315km/hと速い
④地上操縦装置と機体動作の遅延(0.15秒)
⑤地上操縦による操縦感覚の難化
⑥滑走路長の制約と墜落への非許容性の大きさ
特に③④⑤⑥は相乗効果となり、地上パイロットによるUF-104の着陸制御を更に難しくさせた。予算の制約も課題であった。
以下はUF-104のシステム概要について述べる。
❶機体概要
格納庫内のUF-104 YouTubeより転載
飛行するUF-104 YouTubeより転載
機体の操縦は地上からの無線操縦式で、自律飛行も行える。ただし、元の操縦系統を残してFBW化したため有人操縦もできる。
オートパイロットとスロットルコントロールでの水平/速度維持も可能。更にこれらは2重化されている。
コックピットのパイロット・アイライン上には下向き5°でTVカメラが配置されている。視界は左右46°、上下35°でカラー映像を撮影できる。
このカメラの映像は地上装置に伝送され、操縦及び離着陸に使用される。映像はL帯電波を用いて地上装置に伝送される。
レドーム上面には長さ1mの黄色のヨーストリング(紐)が取り付けられている。地上パイロットは機体カメラを通じてストリングを見ることで、横風の状態を把握する。
無線操縦時の信頼性を確保するため、アンテナは機体の上面と下面に取り付けられる。370kmの操作範囲を持つ。
FBW化にあたっては
・デジタル式の無人機制御装置(DFCC)
・大運動用センサ(追加センサ)
・舵面作動アクチュエータ(DSCS)
・スロットル作動アクチュエータ
などが追加された。
DFCCはアナログ式のバックアップも有する。
追加された2種のアクチュエータは機上コックピットからの入力を代替し、既存の操縦系統を動かす。
DSCSには電動式の2重構成のスマートアクチュエータを搭載した。日本で初の搭載例である。
❷地上システム/データリンク
地上装置の内部 Youtubeより転載
地上コックピットの外観 Youtubeより転載
地上装置は以下のような構成である。
・地上コッピット
・電波の送受信装置
・TV電波の受信装置
・諸信号処理装置
・オペレータ・コンソール
地上コックピットではパイロットが機体カメラの映像をモニタしながら、機体を操縦する。
操縦席は計器類を含めF-104のものを再現しているが、簡易固定型で体感は模擬できない。ただし、70種のコマンド信号・100種のテレメトリ信号で実機と同等の操縦性を有し、機体パラメータの把握ができる。
18.5km以下の航法はカラーTV映像を、それ以遠の航法は地図と機体位置をモニターして行った。55km以遠でもTVカメラは水平線を伝送し、姿勢計として働いた。
電波の送受信装置は2個のトラッキング・アンテナを有し、それぞれ20mと25mのタワーに設置された。
アンテナは直径8m、出力100W(min)、2重系カセグレンアンテナで帯域はCバンドである。
地上アンテナは370kmの範囲で常に機体を追尾し、追尾が外れると自動で1秒以内に機体追尾を回復する機能を備えた。
❸着陸誘導
地上コックピットの着陸誘導画面
実際の着陸時の画面 Youtubeより転載
中心に赤いガイダンスサークルが見える
UF-104の着陸は、機体カメラ映像に重ね表示されたガイダンスサークルの中心に機体マークを合わせて行う。画面にはフラップやギア、燃料残量も重ね表示される。
ガイダンスサークルは適正アプローチを示し、機体位置と状態を基に表示される。機体位置の算出はトラッキングアンテナの測定でなされる。
近距離ではトラッキングアンテナの測定精度が十分で無くなり誤差が生じる。各種機器の固有誤差の較生、トラッキングアンテナとの滑走路間の精密測定、飛行前の気圧計の調整 といった手法で誤差を小さくした。
最終的に誘導時の横ズレは1〜2m、縦ズレもパイロットに違和感を感じさせない精度を獲得した。
着陸時は常にTVカメラ内に滑走路を入れる必要がある。そのため着陸操作時は滑走路と正対する方法が最善である。実際には横風が存在するため、横風へのサイドスリップも考慮する。
横風に対しバンク角を変化させても方向は変わらず、その逆も同様ならば操縦が容易になる。
そこで上画像のような機体制御則を開発した。方位角と主翼水平保持のオートパイロットと重ねることで、方位角かバンク角のどちらか一方のみの制御を可能にした。
機体制御の例
バンク角と方位角の一方のみの制御を可能とした
地上装置と機体動作の遅延を考慮し、機体操作は少なめの操作をゆっくり行う方法が最適とされた。
着陸支援としてはAOAオーラル・トーンも導入されている。適正な着陸速度の場合は600Hzの定常音を、それより高速な場合は400Hz、低速な場合は1600Hzの断続音を含めたトーンで表示した。
機体が接地した瞬間を300Hzのトーンでパイロットに伝え、残りの滑走路長さを有効に利用する信号とした。
更に、オーバーラン対策として滑走路オーバラン上での高度35フィートを閾値と設定した。電波高度計をセンサとして1300HzのトーンとTV画面の赤い縁取りでパイロットに知らせる。パイロットに的確な着陸復行の判断を促す。
以下には試験の流れを示す。
地上試験(フライトシミュレーション試験)は以下の3つに分類される。
①簡易シミュレーション試験
ハードウェアは上画像の地上コックピットと視界装置のみを使用する。F-104の空力および操縦系統の特性を把握し、システムの設計仕様を設定した。
②システム統合試験
①の効果を確認する。上画像の機体システムも含めた試験を実施した。
③地上確認試験
システム設計の最終確認を行う。上画像全ての機材を用いて試験を行った。
地上試験は三菱重工のパイロット(3人)と航空自衛隊飛行開発実験団のパイロット(4〜5人)によって行われた。
以下は飛行試験について述べる。
試改修機の初飛行は1990年4月19日に実施した。飛行試験では地上からの操作の他、パイロットが機体に搭乗した。機上のパイロットがオーバーライドする形で安全性を確保しつつ、地上操作への委任を徐々に増やした。
試験にはチェイサー機としてF-1、F-4も参加した。
無人着陸は1990年12月11日に行われた。1991年の試験完了までに23フライトが実施された。
試験の結果、着陸誘導システム並びに飛行制御則も満足する性能を示した。その後の量産機の運用も円滑に行われ、1997年1月には無事に運用を完了した。
Youtubeより転載
YoutubeにはUF-104の運用時の映像が投稿されているため、動画リンクを紹介する。画像の上にある下線部をクリックすると動画に飛べる。画像をクリックしても動画は流れないため注意すること。
UF-104の
UF-104は、有人機の無人機化やフルスケール無人機の運用ノウハウの獲得に貢献した。
[多用途小型無人機]
1986年から自衛隊は偵察型小型無人機の名称で、高速偵察UAV、長距離データリンク、ステルス空力構成の概念的な調査と研究を開始した。技術研究本部と富士重工が中心に行った。J/AQM-1の開発も大詰めの時期である。
引き続き1994年から2001年にかけては多用途小型無人機(TACOM)の研究が実施された。戦闘機クラスの航空機から空中発進・海上回収され、偵察・標的等の各種用途に使用する無人機システムの実現を目指した。
※TACOMとはTAyouto K(C)Ogata Mujinkiのバクロニムである。
1994年の部内研究では多用途小型無人機の技術課題として以下の4点を抽出した。
①ステルス高速性を実現する機体形状
②主翼展開技術
③GPS/ADS複合航法
④目標画像補足/追尾技術
この研究では上記4点を解決するため、実際に模型や試作機を使い繰り返し試験と検証が行われた。5回の投下を含む、22回の母機の飛行がなされた。
TACOMの機体の概要を以下に示す。
機体の生存性を高めるため、ステルス性と高速性に重点が置かれている。TACOMは空中発進方式であり、F-4EJに懸架される。母機への搭載時に極力コンパクトにするため、主翼は折り畳み式である。
エンジンはテレダイン社のモデル308-10J ターボファンエンジンである。インテークは機体背面に配置されており、湾曲する事でエンジンのファンを隠し低観測性に貢献する。
なお、エンジンは輸入後に不具合が発見され試験期間が2年間延長された。
機体は海上に着水し、船舶によって回収される。着水時の機体の損傷を抑えるため、機体背部にはパラシュート、機体下面にはエアバッグを備える。
アビオニクスは機体前方に集中して配置される。
・MMCは機体内外の情報を基に、機体の制御を行う。
・通信は見通し線内で2つの指向性アンテナ(Cバンド)
と1つの無指向性アンテナ(UHF帯)で行われる。
画像・飛行諸元・指令が送受信される。
・機体前面にはIRセンサを備え、2軸ジンバルで安定
される。
TACOMの発進から回収までの流れは以下の画像の通りである。
発進から回収まで
具体的に一連の流れを述べる(上画像も参照)
①機体の発進
母機からの射出
発進と主翼の展開
発進後は下降しながら主翼を展開する。展開後は機首上げを行い、高度を一定に保ち飛行を開始する。
母機のF-4EJはTACOMの投下及び起動が可能である。緊急時は、母機からTACOMのエンジンの停止/再起動の指令を送られる。
この操作のためにF-4EJには、コックピットに操作パネルの追加などが実施された。
②飛行時の誘導及び航法
GPS/ADSによる複合航法
地上装置
TACOMの航法/制御ブロック図
TACOMはプリ・プログラム方式の飛行を行う。また、その際の自己位置の評定にはGPS/ADS航法かGPS/AHRS航法を用いる。ADSとAHRSはGPSの誤差を補完する。
※ADS: 機体の速度積分から自己位置を評定する。
AHRS: 地磁気センサで基準線をとり、機体の加速度と角速度の変化から自己位置を評定する。
GCSは見通し線内で受信したテレメトリデータから機体の位置を把握する。また、機体のプログラム飛行にオーバーライドする形でGCSから手動での指令誘導も送信できる。
プリプログラムは地上支援装置(GSE)で機体にインストールする。GSEはアビオニクス/データリンクのチェッカーとエンジン起動/整備キットを含む。
③目標の追尾
目標追尾時の軌道
真上から見た際の追尾時の軌道
GCSはTACOMからの画像を基に目標を選択し、その位置を算出する。
機体側は自動で目標を中心とした螺旋降下軌道(TMS)を開始する。TMSによって目標を継続的に監視する。この時に機体のIRセンサで撮影した映像と画像は、リアルタイムでGCSのモニターに表示される。
TMSの終了後はプログラム飛行に戻り離脱する。
④回収
離脱した後は海上に着水し回収される。パラシュート降下を行い着水時は機体下面のエアバッグを作動させる。
機体は水密構造であり着水後は海上浮揚する。
以下は研究と試験の流れを説明する。
部内研究後の研究試作は以下の内容である。
(その1)の研究試作
・主契約者:富士重工 期間:1995〜1997年
・全体システムの基本構想とシステム設計
・試験用風洞模型(CTS)の製作
(その2)の研究試作(1)
・主契約者:富士重工 期間:1996〜1998年
・画像センサ系を除く全体システムの細部設計
・関連試験の実施
・無人機(画像センサは除く)、機上装置、試験機材
の製作
(その2)の研究試作(2)
・主契約者:三菱重工 期間:1996〜1998年
・F-4EJを母機とした適合性試験
・母機改修設計と改修ハーネスの製造
(その3)の研究試作
・主契約者:富士重工 期間:1997〜1998年
・画像センサを含む全体システムの細部設計
・関連試験の実施
・画像センサを含む無人機、試験機材の製造
研究試作を通じて計5種の機体が製造された。
①1型
翼が折り畳まれた、エンジン無しの滑空機
②2型
1型に機体の軌道及び負荷を検知するセンサを追加
③3型
翼展開機構を備える、エンジン無しの滑空機
④4型
IRセンサ以外のアビオニクスとエンジンを搭載した
動力機
⑤5型
IRセンサも搭載したフルスケールモデル
試験では設計段階の資料を取得するため、機体の風洞試験とRCS測定試験が行われた。これにはCTSを用いた投下試験も含まれる。期間は1997年の後半の半年間。
この地上試験でステルス高速性を両立する機体形状と投下特性を把握した。
1998年からは地上整合試験と母機適合試験が行われた。
また、1999年からは1型と2型を用いて異なる条件で直線飛行からの分離特性を確認した。
3型の試験では主翼展開を中心に試験がなされた。
投下から0.3秒後にはロールが、1.5秒後ピッチの制御が始まる。主翼の展開は投下から3秒後に開始される。
3型までに蓄積された投下データをから実機(4・5型)の投下軌跡の予測がなされ、4・5型を実際に投下する事で実機での主翼展開技術を確認した。
4型では目標追尾以外の項目が確認され、5型では全ての動作を確認した。地上でGCSと接続し、無人飛行状態を模擬するシステム試験なども含まれる。
GPS/ADS複合航法の技術課題を解明した
機体を投下しないまま起動し
目標画像捕捉/追尾技術を確認した
3〜5型は回収試験が行われたが、回収後は洗浄を実施し繰り返し使用している。
無人機の飛行に大きな不具合は発生せず、無人機飛行試験は2001年まで実施された。
本研究の成果は次の無人機研究システムに引き継がれ、さらなる発展を遂げている。
[無人機研究システム]
2004年から2011年にかけて無人機研究システム(文脈に応じ、無研と称する)の開発が実施された。偵察等を行う無人機の運用態勢、使用方法等についての研究を目的している。
機体形状はTACOMを基にしつつも、いくつかの変更が加えられた。センサ能力の強化と自動滑走着陸機能を特徴としている。
開発の背景にはTACOMの試験の結果、同機の海上回収と再発進では予想以上に隊力と時間を要したことが挙げられる。波高制限など運用の制約も顕在化した。
そこで滑走着陸機能を有する無人機が部内研究で検討された。
FABOT(Fuji Aerial roBOT)
富士重工は2002年に航空宇宙技術研究所(現JAXA)と契約し、高速飛行実証機(画像のFABOT)を製造した。
このFABOTはGPSによる完全自動離着陸飛行を実証し、無研の自律飛行制御の基礎技術を確立した。具体的には以下の3点である。
①自動着陸のための高精度の航法・誘導・制御技術
②無人航空機のシミュレーション技術
③無人航空機・地上装置のシステム統合技術
特に①はGPSを活用し簡素化と高精度化を図った。大規模な地上設備による計器着陸を必要とせず、多くの滑走路に対応している。
開発品が装備化されるまで
部内研究では以下の技術課題を抽出した。
①高速自動滑走着陸
②高分解能偵察映像取得技術
部内研究が終了した2004年からは、無人機研究システムの開発を開始した。主契約者は富士重工である。開発の目的として、実機を用いた無人機システムの運用ノウハウの取得と将来に向けた運用方法の研究が挙げられる。
無研は部隊に配備し研究を行うことから、航空幕僚監部の開発要求に基づき開発された。TACOMは技術研究が目的であるため、航空幕僚監部の研究要求に基づき研究試作された。
以下はシステムの概要を述べる。
❶無人機
無人機 真横から
───────────────────
│ 全長 │ 5.2m │
│ 全幅 │ 2.5m │
│ 全高 │ 1.3m │
│ 離陸重量 │ 760kg │
│ 上昇限度 │ 1219m │
│ 推力 │ 3kN │
│ エンジン │ テレダインJ402-CA-702 │
│搭載センサ │ Wescom MX-15 │
───────────────────
無人機の諸元
無人機のスペックは画像の通りである。機体形状はTACOMをベース機としているが、いくつかの変更がされている。
主な変更点としては
・エンジンの変更
・主翼を固定式に変更
・着陸用脚スペースの確保
・前方視野の確保
・センサ搭載位置の変更
・搭載燃料増加とタンクの分散配置
・高高度要求からの燃料フィルタとポンプ形式の変更
・航空自衛隊での運用を見据えた操縦装置へのオペレ
ータ訓練機能の追加
などが挙げられる。
以下には機能を羅列していく。
偵察機能
F-15に懸架された無人機
・昼夜間の可視光と赤外線映像の撮影
・移動目標に対する画像追随
・固定目標に対する地点追随
・画質調整
・地上装置から視軸方向の指向
・高精度位置標定
・母機搭載状態での撮影と自機の飛行諸元の取得
伝送機能
無人機の機体アンテナ類
・操作装置、着陸支援装置、無人機間のデータリンク
・取得データのリアルタイム伝送と機内記録
・状況に応じ記録した任意のデータの抽出と伝送
・他の航空機とのTAS情報の送受信
・地上装置操作員と航空交通管制官の交信の中継
飛行/着陸機能
飛行する無人機
・プリプログラムによる自律飛行
・地上のオーバーライド指令(経路変更)での飛行
・地上指令での偵察飛行とプログラム飛行への復帰
・2000x45 m級滑走路への自動着陸と停止
・誘導路への退避
❷母機
母機はF-15Jであり2機の無人機を搭載できる。母機化に伴い、指令パネルと重心調整用バラストが搭載された。
以下は機能について述べる。
・母機から無人機への給電能力
・無人機への帰投支持
・緊急時の無人機廃棄能力
❸地上装置
アンテナ群
操作装置の全体
着陸支援装置
無人機は屋内から管制される。地上からの操作は屋内の制御装置と2基のアンテナで行う。
着陸支援には屋内設備と1基のアンテナを使用する。
無人機システムでは管制を行う地上操作と無人機の連接が重要である。これまでの無人機開発を活かしたマンマシンインターフェース設計や、高速・大容量で信頼性の高いデジタルデータリンク技術を採用した。
多様な偵察任務や航空管制官との交信を、簡易な操作で実施できる。
以下は地上装置の機能を述べる。
地上装置の機能
屋内装置
・無人機センサの視軸方向の指向
・目標伝送距離以上の見通し線内でのデータ伝送
・2機同時滞空時に任意の1機の選択及びモニター
・ATCトランスポンダのモード切替
・IDENT送信
・応答信号の設定
・無人機を介した航空交通管制官との交信
・無人機の経路変更
・緊急回避指令の伝送
・着陸パターン変更
・着陸復行
・無人機の緊急廃棄
その他に試作された装置を紹介する。
無人機用バリア
無人機の着陸時に展開される。
以下は開発/試験の流れを述べる。
2004年から2009年にかけて以下の試作を行った。
・無人機(内センサ非搭載2機)
・地上装置
・母機改修キット
2008年6月から2011年11月まで試験が実施された。
自律飛行までの流れ
試験は母機携行形態を中心とするフェーズ1(2008年6月〜2009年8月)と、自律飛行を主体とするフェーズ2(2009年8月〜2011年12月)に分けられる。
フェーズ1は40ソーティ、フェーズ2は28ソーティ行われた。自律飛行はフェーズ2において飛行時間767分、20ソーティが実施された。
無研は多数の電波を用いて飛行試験を行う。そのため、試験にあたっては国土交通省や総務省への申請と調整が行われた。
硫黄島での試験その1
フェーズ2は硫黄島のS空域で実施された。試験では上画像のような支援が行われた。
試験は海空自の輸送日程を基に計画された。その他にも海空自及び米軍の訓練、厚労省主催の遺骨収集、現地の給水食能力にも大きく左右される。再試験調整に半年間を費やした結果、試験終了時期は2度変更された。
試験では何度かの不具合と無人機の墜落事例が発生した。
事例1は2009年に、事例2は2010年に発生した。
事例1は燃料タンク内を可視化して原因を解明し、対策を行った。事例2は飛行制御プログラムを改修し対策した。
なお、上の画像には無いが事例1より前にも無人機のエンジン停止が発生している。
発信後のGと機体姿勢の急変から燃料タンク内に余積空気が流入し、エンジン停止に至った。こちらはタンク内に隔壁を設置し対応した。
試験機墜落地点が漁場だった事案も発生した。安心安全の担保のため、内局地方協力局と連携し地元説明を行った。最終的に地元の同意を得て試験を再開した。
これらの不具合で試験終了期間が1年間延長された。
最終的に無人機研究システムは2011年12月に試験を完了した。2012年4月には部隊使用承認を得た。
2012年からは研究用途の無人機として部隊に配備され、運用や体制整備等の研究が行われた。
具体的な期間や研究内容は明らかになっていない。
コメント
コメント一覧 (2)
斯くも見事にまとめ上げて下さった御尽力に、心よりの称賛と感謝を捧げます
とりわけ次期戦闘機・無人機(2)の«その他研究»のまとめに、様々な妄想想像が膨らむのを禁じ得ません
hitomaru10
がしました
hitomaru10
がしました