«航空機全体(2)»

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  1. 将来戦闘機機体構想の研究
  2. 将来戦闘機の技術的成立性に関する研究new!
  3. 将来戦闘機システム開発の実現性に関する研究
  4. 将来戦闘機の開発に係る総合的な実現可能性に関する研究




[将来戦闘機機体構想の研究]

01
2011〜2014年
«概要»
 将来戦闘機の概念設計及び3次元デジタルモックアップの作成・評価・改善を行い、将来戦闘機に関連する各種研究の目標設定に資する研究

«背景・目的»
 2010年以降は将来戦闘機の関連研究が開始されたが、それら研究のためには想定すべき将来戦闘機の目標が必要となる。

 そこで将来戦闘機の技術動向等から適用可能な技術を用いた初期的な概念設計を行い、簡易3次元デジタル・モックアップ(DMU)を作成し、各研究での目標設定に資する必要があった。
 
«詳細»
 本研究では以下の手順を繰り返すことで行われた。

①将来戦闘機に期待される機能・性能を想定の上、技術動向等から適用可能な技術を用いた初期的な概念設計の実施

②概念設計に基づく簡易3次元DMUの作成

③実際のパイロットの介在による空戦シミュレーションでのDMUの評価及び運用者の意見の収集(戦術レベル)

④防空シミュレーションを用いた戦域レベルでの戦闘能力評価

⑤シミュレーションで得た結果や運用者の意見を反映した新たな概念設計及びDMUの作成

01
DMUの作成・評価・改善の手順
空戦シュミレーションは将来アビオニクスの
研究で試作されたシュミレータを用いて実施

 本研究では上記の①〜⑤の手順を繰り返す事で異なる特長を有する、23〜26DMUまでの4つのDMUが作成された。23〜26の数字は各DMUが作成された時の年号による。

MagicalIDoveDive氏提供
(情報開示請求:将来戦闘機に向けての
活動概要と今後の展望 より)
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23〜26DMUの一覧

 以下に23〜26DMUの各々の特長を述べる。
(使用画像の一部は公式資料からでは無いが、シンポジウムで発表された映像と一致する事を確認しており、信頼性は確保されている。


①23DMU

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23DMUの外観概要

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23DMUの機体三面図

某ブログより
05
23DMUの内部透視図

 23DMUは最初に製作されたDMUである。
 各種センサを搭載し、曲がりダクトやウェポンの並列配置による内装化によりステルス化を図っている。

 ウェポン配置は中央並列に中距離空対空ミサイルを4発を内装、短距離空対空ミサイル2発を左右側面兵装庫に1発ずつ搭載している。


②24DMU

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24DMUの外観概要


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24DMUの機体三面図

某ブログより
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24DMUの機体透視図

 24DMUは23DMUのシミュレーション試験の結果を反映し製作された。機体の外形はYF-23に類似する。

 扁平形状で23DMUより側方ステルスを重視し、機体中央に縦列配置でウェポンを内装している。機体中央に中距離空対空ミサイル4発の縦列配置を行い、左右側面兵装庫に短距離空対空ミサイル2発を1発ずつ搭載している。

 前方ステルスはストレートダクトとレーダブロッカの配置により達成している。


③25DMU

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25DMUの外観概要

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25DMUの機体三面図及び内部透視図

 25DMUも23・24DMUの戦闘シミュレーション結果(詳細は後述)を反映して製作された。 

 25DMUでは主に行動半径と搭載ウェポン数を重視し、機体の大型化及び搭載ミサイル数の増加が行われた。

 ウェポン配置は中央並列に中距離空対空ミサイル6発を内装、短距離空対空ミサイルは以前とかわらず合計2発、左右側面兵装庫に1発ずつ搭載している。

 ステルス性は機体の扁平形状化及び曲がりダクトとレーダブロッカの採用で、前方・側方ステルスを確保している。23DMUとは違い水平尾翼が下向きに傾斜しており、エンジンノズルを隠す形になっている。


④26DMU

24
26DMUの外観概要

37
26DMUの外観概要
多くの特徴が一致し、背部にCFTらしきものを備える

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26DMUの機体三面図及び透視図
(先掲載のものを拡大)

※ネット上で防衛省が無償で公開している資料の中に、26DMUと明記されている画像は存在しない。情報公開による開示資料では画像と共にその存在が確認できる。
外観概要で画像は開示資料での26DMUに関する特徴と一致するものを、防衛省が無償で公開している資料から抜き出したものである。

 26DMUは25DMUのシミュレーション試験の結果を反映して製作された、本研究最後のDMUである。

 機体の特長の多くは前身の25DMUに準ずるが、主翼形状の変更などにより航続性能を重視しつつ機体規模の抑制が図られている。主翼形状は23DMUと類似するほか、25DMUでは傾斜した水平尾翼によりエンジンノズルが完全に隠されていたが、26DMUではエンジンノズルの側面下部が露出している。
※外観概要に示した背部にCFTらしきものを積んだ26DMUの詳細は不明

 2014年時点では、2015年に25・26DMUの戦域レベルでの戦闘能力評価を実施する計画であった。

 全体のDMUの変遷としては、前方・側方ステルスの確保、空対空ミサイルの搭載数の増加及び航続距離などの重視が傾向として見られる。


 防衛技術シンポジウム2014ではDMUの戦闘能力の評価結果の一部が公表された。以下にその結果について述べる。(画像からの抜き出しのため、詳細は画像を参照)


①空戦シュミレータを用いた試験内容

・評価対象は23・24DMU
・パイロット介在による戦術レベルの中距離
 空戦評価を実施
・側方RCS低減、レーダ覆域、指令送信覆域
 などの影響を調査

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パイロット介在の空戦シュミレータによる評価


②DMU別のRCS低減の結果

・23→23派生型→24 の順に我の消耗弾数は
 増加(敵の消耗弾数は減少)
・23派生型→23→24 の順に我/敵共に射撃
 可能時間が減少
 ※23、23派生型に顕著な違いは見られず、24では敵の射撃可能時間が
 大きく減少
・主翼後退角の変化によるRCSピークの影響
 は少ない

・側方RCSの低減に効果を確認

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DMUのRCSが戦闘に与える影響


③レーダ・指令送信覆域別の結果

・レーダ覆域が消耗弾数に与える影響につい
 ては相関が見られない
・レーダ覆域と我の射撃可能時間はやや比例
 し、敵の射撃時間は顕著に反比例する

・指令送信覆域と我の消耗弾数はやや比例し
 敵の消耗弾数は反比例する
・指令送信覆域に対し我の射撃可能時間は大
 きく比例し、敵の射撃可能時間は顕著に反
 比例する

・レーダ/指令送信覆域が広いほど我の攻撃能
 力及び防御能力は向上

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レーダ/指令送信覆域と攻撃能力及び防御能力の相関


④防空シュミレータを用いた試験

・数的劣性下での交戦能力評価
・将来戦闘機の性能/機能別に評価
・防空システムの管制によるCAPと迎撃戦闘
 を想定
・CAP位置を変化(近/遠距離)させ評価

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シナリオ終了時の我と敵の残存数で評価

dragoner氏提供
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防空システムの管制によるCAPと敵複数波への迎撃


⑤機能/性能別及びCAP位置の変化による結果

・機能別としてはネットワークの有無、性能
 別としては速度もしくは航続性片方を重視
・グラフの縦軸は機数を表す

・参加迎撃戦力の機数はCAP距離と反比例
・ネットワークの有無は迎撃戦力の集中及び
 空戦結果に影響(有の方が改善)
・航続性能重視は迎撃戦力の集中に優れる
(速度性能と比較した場合)

・ネットワーク機能は先制撃破に寄与する
・航続性能は在空機数(≒迎撃戦力の集中)
 に寄与する

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性能/機能別とCAP位置による結果の変化

 上記試験により戦術/戦域レベルでの戦闘能力評価を実施し、DMUの有効性や改善事項に関する資料を取得した。この結果は25DMUに反映された。


«まとめ»
 本研究の実施により、関連研究の目標に資する異なる特長を有し試験結果を反映したDMUが製作された。
 



«コラム:消えた?スマートスキンレーダ»
 スマートスキンレーダとは機体形状に合わせて配置され、自ら能動的に電波を発し反射波を捉え、機種レーダの探知外となる側面方向の敵を監視するレーダである。

 先述の通り、防衛省はスマートスキンレーダの実現に向けて1990年代から各種研究試作を行ってきた。

 比較的最近の事例としては「将来アビオニクスの研究」では将来戦闘機が搭載するセンサとしてスマートスキンレーダを想定・評価した。「スマートスキン機体構造の研究」では、機体前胴部へのスマートスキンレーダの搭載を念頭にした軽量機体構造が研究された。

14
将来アビオニクスの研究
上方・側方レーダがアビオ構成対象となっている

36
スマートスキン機体構造の研究での運用構想
上方・側方レーダによる広覆域監視を想定

 しかし、先述のDMUの透視図では主翼前縁やインテーク側面、水平尾翼などへの「自らは電波を発しないESMアンテナ」の装備は見受けられるが、スマートスキンレーダに関しては全く情報が見受けられない。

 「アンテナのフレキシブル化技術の研究」では自由に湾曲が可能な空中線が研究されたが、レーダとして必要な高出力での発信は対応していない。

51
将来戦闘機を想定したESMアンテナの配置
(先進RF自己防御システムの研究より)
各DMUの形状は異なるが
ESMアンテナの大まかな配置は上に準ずる

 スマートスキンレーダの搭載を想定していた2000年代後半から、以降は搭載が見受けられなくなった2010年代前半の間で、スマートスキンレーダに対する防衛省の認識がどう変化したのかは興味が持たれるところである。





new!
[将来戦闘機の技術的成立性に関する研究]

54
18
2015〜2017年

«概要»
 F-2後継機の開発の可否の判断を行うために将来戦闘機のアビオニクスを模擬したソフトウェアや機体の想定模型を試作する。

 そしてパイロットを介在した試験を繰り返し実施し、想定模型の風洞試験やRCS計測を行う事で将来戦闘機の要求性能の明確化や技術的成立性の検証などに資するものである。

59

«詳細»
 本研究は将来戦闘機のアビオニクスを模したソフトウェアを試作し、パイロットを介在させた試験を繰り返し行う。また、将来戦闘機を想定した模型を試作し風洞試験やRCS計測を行い以下の目標の達成を目指す。

(1)将来戦闘機の概念設計技術

①先行関連技術研究の成果並びに風洞試験デ
 ータ及び低被観測性試験データに基づき、
 複数の将来戦闘機モデルの精緻化を図る。

②高精度の性能計算により、基本的性能につ
 いてトレードオフスタディを行い、新たな
 概念の将来戦闘機の機能・性能を精度良く
 推算する技術を確立する。

MagicalIDoveDive氏提供
(情報開示請求:将来戦闘機に向けての
活動概要と今後の展望 より)
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概念設計と性能のトレードオフ
精微化モデルの画像は26DMUの流用と推察される

(2)将来戦闘機システムの成立性検証技術

①将来戦闘機システム運用のための膨大かつ
 複雑多岐にわたる各種情報をリアルタイム
 で適切に処理するアビオニクス

②パイロットワークロード低減に寄与するシ
 ステム・アーキテクチャ

③機体/エンジン/ウェポンシステム及び①②
 をソフトウェアによって模擬

④コックピットレイアウト、状況認識手段及
 び操作手段等についてコックピット・モッ
 クアップを用いて検討する

37
戦闘能力評価シュミレータの概要
直接的な検討を行う自機だけで無く、僚機や
脅威機についてもパイロット介在の試験が可能

⑤上記①〜④の
 ・機体を模擬した各種ソフトウェア
 ・コックピットモックアップ

 をパイロット介在の戦闘シュミレーション
 での評価試験を繰り返す事で検証し、検証
 技術そのものも確立する

29
戦闘シュミレーションの概要
空対空戦闘や脅威艦艇に対する対艦戦闘も可能





 研究では54億円の予算のもとMHIを主契約者としてバーチャルビークル(模型及び各種ソフトウェア)を試作された。また、シミュレータも同時に試作した。

26
バーチャルビークル(上記画像は詳細図では無く
概要を示すポンチ絵に過ぎない可能性もある)

07
戦闘能力評価シュミレータ
画像はその構成要素であるコックピットモックアップ

 バーチャルビークルは先に示した画像と初期的なコンセプト案を除いて画像が公開されていない。以下に画像から分かる初期的なコンセプト案の概要を示す。

・全案共通事項
 コックピットの全長/全幅が等しい
 機首の太さが等しい

・航続性&ウェポン重視型
 直線的なLERXと大きく細長い主翼が特徴
 機首上部のIRSTらしき突起が存在しない
 LERX上の線の詳細は不明
 機体の全幅が3案の中で1番大きい
 エンジンの直径が3案の中で1番太い
 ※正確には機体尾部から窺えるエンジンノズル根本の大きさ

・機動性重視型
 短い胴体と大きな主翼/尾翼が特徴
 フラップやラダー等の舵面面積が大きい

・速度重視型
 細長い胴体と小さな主翼が特徴
 機体の全長が3案の中で1番長い
 機体の全幅が3案の中で1番小さい
 エンジンの直径が3案の中で1番細い
 垂直尾翼は見当たらずV字尾翼と思われる
 ※YF-23と同様の全動式V字尾翼と推察されるが詳細は不明

MagicalIDoveDive氏提供
防衛技術シンポジウム2016 オーラルセッション
将来戦闘機に向けての活動概要と今後の展望 
発表スライド8ページ より
42
バーチャルビークルの初期的なコンセプト案

 上はあくまで初期的なものに過ぎず、3案のどれかが将来戦闘機モデルになる訳では無い。

 コンセプト別に、異なる性能を特化させた各案に風洞試験やRCS計測を行う。計測結果から各種性能のトレードオフスタディを行った基準案を作成する。
※初期コンセプト案は各種性能のトレードオフスタディのために、敢えて各案毎に異なる性能に特化させたものと推察される。

29
性能のトレードオフスタディの概要
画像中の基準案は25DMUの流用である

 基準案作成後はそれの派生案も作成する。この流れによって各種性能及び電力・発熱量なども考慮した、将来戦闘機モデルの精微化を図るものである。

 所内試験ではパイロットを介在したシミュレーション試験を繰り返し、模型の風洞試験やRCS測定を行った。繰り返しになるが、バーチャルビークルの最終的な性能配分や外見は公表されてないため詳細は不明である。


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41
次期戦闘機のイメージ1とイメージ2


バーチャルビークルとの関連性は不明だが2020年度予算で次期戦闘機のイメージが公表された。航続性ウェポン重視型と似た主翼を持ち、V字尾翼である。尾翼平面形は26DMUと類似している。

2020年度の防衛白書では、次期戦闘機の新たなイメージが公開された。

機体中央部の真下付近にある、ウェポンベイの扉らしきものの正体は不明である。






«まとめ»
 複数の想定模型やアビオニクスを模したソフトウェアの試作及び試験を行った。それにより将来戦闘機の要求性能の明確化や技術的成立性の検証を図った。


[将来戦闘機システム開発の実現性に関する研究]

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2018年〜

«概要»
 国際共同開発の可能性を含め、開発の実現性を検討するため、各種研究の成果を踏まえた将来戦闘機の技術的成立性に関する研究(バーチャル・ビークル)の成果を活用し、コスト低減の追求、国内の開発体制及び海外との協力の検討等に必要な技術資料の収集を実施する。16億円の予算が承認された。



[将来戦闘機の開発に係る総合的な実現可能性に関する研究]
2019年〜

«概要»
 将来戦闘機について、外国と協業する場合のコンセプト検討、開発プラン検討、能力評価を実施する。8億円の予算が承認された。



«その他技術»


無人機・ミサイル・計測技術などは後日追加予定