«機体構造関連»

56
  1. 新複合材構造の研究
  2. 先進胴体構造の研究
  3. 先進隔壁構造の研究
  4. 先進航空機構造の研究
  5. 降着装置の軽量化の研究
  6. スマート・スキン機体構造の研究



[新複合材構造の研究]

22
01
1994〜2003年

«概要»
   軽量かつ生存性・整備性の高い航空機を実現するための、従来の複合材にない耐損傷性及び適用可能性に優れた特性を有する3次元複合材に関する研究

«背景・目的»
 F-2は一体成形複合材主翼を採用している。これにより積層型炭素系複合材の航空機への本格的な適用が実現した。しかし積層型の構造は炭素繊維などの 縦/横/斜め糸 で織られた織物(層)を積み重ねて樹脂で焼き固めるもので、層を引っ張る力にはとても強いものの層と層とを剥がす力に弱い性質があった。

 このため主翼など、薄く広い板状の部品にしか複合材への適用ができなかった。

43
種類別の航空機構造
F-2の場合、下面外板と桁が一体で成型されている

 そこで、航空機への適用性に優れ且つ、複雑な形状を可能とするあらゆる方向への強度を高めた3次元複合材の研究を行った。
※3次元複合材:2種類以上の素材を複合した複合材料のうち、繊維状の強化材料を3次元的に配置したもの。

«詳細»
 適用範囲を広げるには従来の複合材料の、層と層を引っ張る力に弱いという性質の克服が課題であった。そのため、層と層とをZ糸という厚み方向のドライの糸で縫い合わせて三次元の織物にすることで、剥がれにくくする手法の実現が目指された。

02
3次元織物複合材の概要
層と層を縫い合わせるZ糸が導入されている

3D TIMONのHPより転載
 ResinTransferMolding
3次元複合材の成型法である
RTM法(レンジ・トランスファー・モールディング)

 3次元複合材の実現のために

①設計・解析技術
②製織技術
③樹脂浸透技術
④成型加工技術

の4点の技術項目の達成が必要とされた。

 ①の達成は、設計基準を定めるとともに有限要素法とユニットセル法を組み合わせた3次元複合材強度解析法を中心とした解析基準を設定することで実現した。
※ユニットセル法::繊維と樹脂の最小構成となる単位(ユニットセル)でモデル化し、その3次元方向の強度を算出することにより、複合材構造物全体の強度を検討する方法

     ②の達成は、面内4軸に面外1軸を加えた複雑形状部品の5軸3次元製織法を開発し達成された。これには高密度繊維配向、面内糸のうねり低減、面外糸の配置と締め付け及び製織の一部自動化を含む。

 ③の達成は、厚板3次元織物に対する樹脂含浸・硬化技術を取得し達成された。これには金型技術、温度プロセス、保圧技術及び低粘度樹脂の採用を含む。

 ④の達成は、機能部品への複合材の適用技術を開発し達成された。これには、異形形状、丸棒及び円筒形状部品と摺動部対策を組み合わせた油圧アクチュエータ(差動装置)への適用を含む。

 また、実大部品の成形技術を開発した。これには大型化及び発展性を見込んだスカーフ結合方式 及びくさび効果による異種部分との結合等の技術を含む。

 また、①〜④の技術資料を得るために1994〜2001年にかけて下記の各種航空機部品が試作された。

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各試作品の概要
(航空機の画像はあくまでイメージ)

06
上記の翼胴結合金具の実物画像
100トンの荷重に耐え、従来の金属性の
ものと比較して約30%の軽量化がなされた。

«まとめ»
 20億円が投入された当研究の実施により航空機への複合材料の適用範囲拡大に資する、3次元複合材料の実現に必要な技術課題の達成と試作品の目標性能の達成がなされた。

 特に、製織技術及び樹脂含浸技術については、我が国では研究段階であったものを応用段階へと発展させたものであり、3次元複合材に関する設計、製造分野での固有の技術に成り得たものと評価がなされている。



[先進胴体構造の研究]

08
16
1999〜2002年

[先進隔壁構造の研究]

38
2003〜2006年

[先進航空機構造の研究]

25
2007〜2009年
※先進胴体構造・先進隔壁構造・先進航空機構造の研究は密接な関係を持ち、資料も少ないためまとめて紹介する

«概要»
 使用温度環境の厳しい胴体構造の軽量化とコスト低減を目指し、耐熱樹脂を活用した複合材料及び新しい加工方法を用いたチタン系金属材料、ナノ複合材の適用に向けた研究

«目的・背景»
 戦闘機の胴体構造は様々な艤装を効率的に納めるために複雑な曲面と部材配置を有し、且つエンジン及びダクトからの熱に継続的に晒される。F-2の主翼に使われた複合材は母材であるエポキシ樹脂の特性に制約され、耐熱性は特段に高いものではなく、複合材のエンジン周辺構造への適用は困難であった。

 使用温度環境の厳しい胴体構造の軽量化とコスト低減を実現する材料の、基礎特性の確認と胴体隔壁及び外板への適用研究を実施した。

«詳細»
 耐熱性に優れた耐熱樹脂を活用した複合材料及び新しい加工方法を用いたチタン系金属材料を候補として材料基礎特性の検討を行った。複合材は耐熱性に優れたビスマレイミド樹脂及びポリシアネート樹脂を用いた耐熱複合材を候補材料として検討を進め、クーポン試験及び要素試験により基礎的技術資料を得た。

 なお、本研究は、同時期に次世代超音速機への耐熱三次元複合材の適用に関する研究を実施していた宇宙航空研究開発機構(JAXA)との研究協力項目の一つとして取り上げられ、試験データ等の交換を通じ、研究の効率化が図られた。

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試験を行うチタン合金片

 金属材料については、超塑性/拡散接合チタン合金の適用について検討を実施してきた。チタン合金は耐熱性や比強度に優れ、エンジン周辺構造等にこれまでも使用されてきた実績があるが、加工性に難があることで知られている。

 そこで、新しい加工方法(超塑性成形、拡散接合)を適用し、一次構造部材である胴体隔壁として十分な形状及び強度を有しつつも安価に製造する技術について検討・試験を実施し、接合面の強度特性や多層構造設計技術に関する指針を得た。先進隔壁構造の研究はSUBARUが担当をしている。

 また、2007年以降は技術的成熟度が高まってきたナノ複合材等の可能性を追求すべく、先進航空機構造の研究を実施している。


[降着装置の軽量化の研究]

26
2005〜2006年

«概要»
 将来の航空機(戦闘機)の降着装置の軽量化を図るため、降着装置のうち、ドラッグストラット、旋回機構及び昇降機構部等への複合材等の適用のため国内における関連技術及び基礎材料の候補調査



[スマート・スキン機体構造の研究]

56
03
2006〜2010年

«概要»
 航空機の外形形状に沿って配置可能な空中線システムであるスマート・スキンセンサに適合した、機体の変形がセンサ精度に悪影響を与えないような高強度/高剛性でかつ軽量な構造に関する研究

«目的・背景»

36
スマートスキンセンサの搭載で可能になる運用構想

 諸外国の最新鋭戦闘機は低被観測性や高運動性を兼ね備える傾向がある。それらに対処に有効な、スマートスキンセンサの配置を可能とする胴体構造の研究と各種研究試作を行った。
※スマートスキンセンサとは航空機の外形形状に沿って配置可能な空中線システムである

«詳細»
 スマート・スキンセンサの搭載には以下の事が求められる。

・センサ部の高機動時での負荷への耐性
・ スマート・スキンセンサ及び周辺構造との
     段差隙間によるRCSの増加の極限
・機体の変形がセンサ精度に悪影響を与えな
 いような軽量高剛性構造技術を適用した
 前胴部構造

 これらを達成するためにMHIが主契約者となり、TRDI第3開発室による機体の細部仕様や研究コスト管理、及び研究スケジュールの確保を重点とした管理のもと、MHIの設計者が最大約80名集まり、前胴供試体等の設計、製造を行った。


 研試(その1)ではスマート・スキン・センサの機体への取り付けの設計に関する資料を得る事を目的とした。そのため、搭載を想定したレーダのシステム設計、関連試験及びスマート・スキン構造要素供試体の設計及び製造を行った。

46
研試(その1)での内容

 2008年の所内試験のスマート・スキン構造要素試験ではセンサ構造要素試験を反映した構造層の強度計算を実施し、強度成立性を確認した。RCS増加を抑制できることを確認した。

 また、センサのRCSの測定値が推算値と少し差異がある事が確認された。差異の原因として内部構造の影響によるものと判明し、内部構造の再検討を行って改善を図った。

35
センサ構造の強度成立性の確認

 研試(その2)では研試(その1)での成果を基に、センサ及びセンサを搭載した胴体構造に関する資料を得るため、構造設計、関連試験及び風洞試験模型の設計及び製造を行った。

17
研試(その2)の概要

56
制作された前胴構造

28
前胴構造強度試験の様子

 所内試験ではスマート・スキン風洞試験として、平成22年度に試作したウェポンベイの模擬を含む全機低速風洞試験模型及び全機高速風洞試験模型の風洞試験により、その試験評価を実施した。

 平成22年6月から7月にかけて、札幌試験場の三音速風洞において全機高速風洞試験を、平成22年9月から11月にかけて、航空装備研究所の低速風洞において全機低速風洞試験を行った。

 両風洞試験とも、ウェポンベイの幅を2種、深さを2種、扉サイズを2種、扉開度を2種の各々の組合で風洞試験を行い、全機6分力を計測し、ウェポンベイの無い形態(クリーン形態)との比較をし、ウェポンベイや扉の形態による全機6分力への影響に関する基礎的なデータを得た。

 これらにより、ウェポン・ベイの有無による空力データを用いて前胴部荷重基準点における荷重への影響を確認し、その荷重で前胴部の構造強度が成立することを確認した。

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試作された内装ウェポン扉付き風洞試験模型

15
ウェポン扉を開いた状態で低速風洞試験を行う様子

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ウェポン扉を閉じた状態で高速風洞試験を行う様子

«まとめ»
 スマート・スキン機体構造を適用して前胴部重量を低減する実現性を示すとともに、構造強度が成立することを確認した。また、ウェポン・ベイに関する空力データを用いて、前胴部の構造強度が成立することを確認した。更にスマート・スキンセンサ搭載によるRCS増加の低減を図ることができた。